久しぶりに本屋さんの文芸書の棚を眺めていたら目に飛び込んできたのが恩田陸作『鈍色幻視行』(集英社)という小説だ。映画化もされた『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎)という作品が好きで、同じ作家なら、と手に取ってみた。本の帯には作中に出てくる小説『夜果つるところ』(集英社)も実際に出版されていて、「W重版!」とある。
なになに?!物語の中の小説を実際に本で読めるということ?!
この状況にワクワクして、迷わず購入した。『夜果つるところ』も後日別の書店で見つけ、無事に2冊を入手した。読み始めようとして、はて、どっちの本から読むべきなのか…と悩んだが、今は両方を少しずつ読み進めてみているところである。
この2冊の小説の中身について、興味が湧いた方は実際に読んでいただくとして、そういえば若いころ、これと同じように「読書を体験」できる本があったことを思い出した。
ご存知の方も多いと思うが、その本はミヒャエル・エンデ作の『はてしない物語』(岩波書店)である。作者のミヒャエル・エンデはドイツの児童文学の作家で、おそらく最も有名なものは私が最初に読んだ『モモ』だろう。灰色の時間泥棒が出てきて、子どもながらに何か得体のしれないものを感じながら読んでいた記憶がある。
『はてしない物語』は、映画『ネバーエンディングストーリー』の原作本である。ただし映画は実際の本とは全く別のものだ。どちらも少年の冒険ファンタジーであるし大筋は変わらないが、映画では、私が本を読みながら想像していた世界や登場する生き物などが具現化されているわけで、その時点でもう私にとっては違う物語になっているからだ。映画はそれなりに楽しめるものだったが、この物語のほんとうのおもしろさは「本」という形態でなければ100パーセント味わえないところだと思う。
この本の特徴は、なんといってもその「装丁」である。あかがね色(美しいワインレッド)の布張りで、表紙に2匹の蛇の模様が丸く描かれている。本の中の文字はあかがね色と緑の2色使いである。不思議な挿絵もある。
これがこの物語を読んでいくととても重要なカギであることがわかるのだ。どう重要かはこれから読む方への楽しみを奪ってしまうので書けないが、割と早い段階で心臓がドキドキし始める。さらに読み進むともう物語を追体験している気分になってくる。次第に先を読むことがだんだんとためらわれる。夜、眠りにつくのが少し怖くなる。朝目が覚めたら別の世界に…?
こんな読書体験はハードカバーのこの装丁だからこそのもので、もし読んでみたい、と思われる方がいたら、文庫版でも、ましてや電子版でもなく、このハードカバーで「体験」することをお薦めする。子どもが読んだら読書好きになること間違いなしの本だと思う。
最初に紹介した恩田陸さんの2冊の本だが、こちらの装丁にも少し工夫がされている。読み始めて間もないのだが、こちらのちょっと種類が違う「ドキドキ」はもうすでに始まっている。どうしよう、最後まで行けるだろうか…。
恩田 陸 最新作、2カ月連続刊行『鈍色幻視行(にびいろげんしこう)』(好評発売中)『夜果つるところ』(好評発売中)集英社 (shueisha.co.jp)
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