日本語は表記のゆれが多い言語です。たとえば送りがなの付けかた(「申し込み」と「申込み」)や外来語における長音符号の有無(「フォルダー」と「フォルダ」)、算数字と漢数字の使い分け(「1度」と「一度」)など、同じものを指すのに複数の表記があります。
表記ゆれが多いと、読み手にとって不快感や混乱の元となるので、取扱説明書のように同じ表現や用語が繰り返し使われる文書のライティングの際は特に、あらかじめルールを定めてから臨むことが大事です。
ただ、ルール化が難しいケースもあります。特に漢字の使用については、常用漢字だから使ってOK!というだけでなく、その漢字のもつ印象や読み手の先入観、さらには他の文字とのバランスといった要素もあり、なかなかやっかいです。
過去に受注したマニュアル制作での事例ですが、ボタン電池やメモリーカードを正しい向きで挿入させるための注意書きで、「おもて面(うら面)を上向きに…
というかな混じりの表記を選んだことがあります。「おもてめん」と読ませたいが、「表面」という字面では「ひょうめん」とも読みたくなるし、「裏面」は「うらめん」と読んでもらえそうだが、「裏」だけ漢字にするのも不釣り合いだし…ということで、たどり着いた結果でした。
また別の例では、「相違点」という意味で「違い」という表現を使っていたときに、「“違い”の漢字は“間違い”を連想させそうなので使いたくない」との意見をクライアントより受け、議論の結果「ちがい」とかな書きにしたこともありました。(ちなみに「相違点」では硬すぎるということで、その文書ではNGでした。)
さらに感覚的な話になりますが、漢字に比べてひらがなは読み手に「やさしい、親しみやすい」といった印象を与えるということで、あえてひらがなを使うことも考えられます。やさしい印象にする必要がないとしても、漢字ばかりの熟語を羅列するよりひらがなを効果的に混ぜたほうが読みやすくなることもあります。このあたりは、文書の内容やターゲット(読み手)も考慮しつつ判断することになるでしょう。
「漢字VSかな」のみならず、いろんな表記が選べる日本語は見かたによっては便利な言語ですが、読みやすさと整合性の両方を追求するときりがなく、母国語ながらつくづく難しいなあと感じます。
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