シカゴからメンフィスに飛び、車を借りる。目指すはミシシッピ州クラークスデール。
デルタブルースの聖地である。
カーナビは、ない。
地図だけが頼りのロードトリップ。
地元FM局にチューン・インしたら、一路南を目指す。
ラジオDJも徐々に、南部独特のアクセントが強くなる。
ゆったりとした優雅な南部訛りは耳にやさしく、中西部や西海岸の大都市で聞きなれた米語とは一味違う。
いつの間にか辺り一面の綿花畑が広がっている。出来具合を確かめているのか、腰をかがめて綿を摘む人影が見える。
時折、白くふわふわとした綿が車の窓に当たっては飛んでゆく。
クラークスデールを訪ねる目的のひとつはデルタ・ブルース・ミュージアム。
インターネットもスマホもない時代、旅行代理店で手に入れたリーフレットを頼りに右折左折を繰り返すうち、
どうやらクラークスデールの「地元」に迷い混んでしまったらしい。
時が止まってしまったような街角。
おっかなびっくり車を降りて店の前で道を尋ねる。
どこからともなく人が集まり、地図をのぞき込みながら、あっちだこっちだと親切に教えてくれるが、聞き取るのに一苦労。
これがディープサウスのアクセントなのか。
のどの渇きを覚え、地元の小さなドラッグストアで飲み物とドーナツを注文する。
高校生くらいの男の子がカウンター越しに応対してくれる。
“For here or to go?”
「はい。テークアウトでお願いします。」
“Paper or plastic?”
「そうだな、レジ袋でお願いします。」
“xxx or yyy?”
「・・・(えーっと何だろう)」
“XXX OR YYY?(大きな声で)”
「・・・(聞こえてはいるのだが、聞き取れていない。)」
“X-X-X OR Y-Y-Y?(ゆっくりと、大きな声で)”
“(やっとわかった!)You mean decaffeinated or regular coffee?”
“(あきれた顔で)Yeah, that’s what I said. Decaf or regular?”
まさかこんな小さな町でカフェイン抜きのコーヒーがいただけるとは思わず、とんだ恥ずかしい思いをした。
音声認識や音声翻訳の技術開発が飛躍的に進んでいるとも聞くが、
各国語の地方特有のアクセントや方言にはどの程度対応しているのであろうか?
あの日、彼にスマホに向かって話しかけてもらっていたら、“Decaf or regular?”と表示されたかもしれないが、
20年以上前のエピソードがこれほど思い出に残ることはなかったかもしれない。
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