先日電車に乗っていた時のことです。若い、おそらく20代前半と思われる女性二人がこのような会話をしていました。
女性A「わたし最近似てるって言われるキャラクターがいて…」
女性B「え、なになに?」
女性A「わたし自身は似てるとは思っていないんだけど、すごく似てるねって」
女性B「えー、なんだろう教えて」
女性A「あのね、アンパンマンに似てるって言われるんだけど…」
と、ここまで聞いてわたしはピンときました。
おそらくこの女性Aは、「似ていない」と言ってほしくてこの話をしている。アンパンマンは小さな子供たちに大人気で、愛らしい風貌ではあるけれど、若い女性が似ていると言われて喜ぶキャラクターではないものな…
そんなふうに思っていると、案の定女性Bが
「えー、全然似てないよ。全く思わない」
と激しく否定。「顔丸くないし、痩せてるし」
女性A「でも何回か言われたんだ、似てるって」
女性B「本当に似てないよ!マジで!」
女性A「そうかなあ…。あ、推(お)しだったらごめん」
女性B「いや、推しではないけど、本当に似てないから…」
二人の顔は見えなかったので、その女性が本当にアンパンマンに似ているかどうかはわたしには分かりませんでした。
しかしわたしはこの女性Aの言葉
「推しだったらごめん」
に、ある種の衝撃を受けました。
彼女は確かにそう言ったのですが、わたしは彼女が言っていることの意味が一瞬分からず固まってしまいました。
「推しだったらごめん」?
ということは、女性Aは、アンパンマンが女性Bの「推し」である可能性があると思っていて、女性Bが「全然似ていない!」と否定している理由が「わたしの推しとあなたが似ているわけないでしょ、一緒にしないで」という不満の意味合いと捉えたということなのです。少なくとも、その可能性がある、と。
誰を推してもいいこの時代、自分が良いと思っていないキャラクターもどこかの誰かの推しである可能性を意識する、新しい価値観、若い世代ならではの感覚かもしれないと、新たな言葉の持つニュアンスにいたく感銘を受けた出来事でした。
もう一つ、最近耳にした言葉で、価値観のアップデートを感じさせるフレーズがありました。
それは
「手伝いは要らない」
です。
これはとあるインタビューで、ワンオペ育児をしているという女性の口から出た言葉です。
夫に対して、手伝いは要らない、と。
これは「夫には子育てにいっさい手を出してほしくない」という意味ではありません。「サポートではなく主体的に動いて欲しい」という意味なのです。
おそらく彼女の夫は、「いつでも手伝うよ」「大変なら手伝おうか?」などと日々彼女に言っているのでしょう。
優しい夫の発言とも捉えられそうなこういった言葉も、共働きが主流となり男性の育休が一般化しつつある昨今では、「手伝う」が悪く捉えられてしまうのも、無理からぬことかもしれません。
「手伝いは要らない」
という言葉には、責任を片方にだけ押し付けないでほしい、という彼女の切なる願いが込められているのだろうと思いました。
おそらく同じような意味で使われる「育児に協力的」という言葉も、今後はあまりいい意味では使われなくなっていくかもしれません。
時代と共にさまざまな感覚がアップデートしてゆき、それと共に言葉の使われ方やニュアンスも変わっていきます。一昔前なら考えられない言い回しが、これからも日々生まれ、使われるようになっていくことでしょう。
アップデートに取り残されないように、また同時に過度に振り回されないように、言葉や感覚に対してこれからも冷静に、理解を深めていきたいと思いました。
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