面白お魚ネーム

私は幼少期に魚類に興味を持ち、暇さえあれば大きなカラー図鑑を図書館で借りてきては飽きずに捲っていた記憶があります(お陰で返却日を度々忘れ、何度か怒られた記憶もあるのですが)。魚に興味を持った理由をはっきりとは憶えていませんが、その頃住んでいた場所が大田区の大森で、海岸や河口が割と身近にあり、小さいころから磯遊びや魚釣りによく出かけていたので自然とその方面に興味を抱いたためでしょう。(当時の東京湾は現在程ではありませんが水質も改善されており、休日の臨海公園では魚釣りや潮干狩りに来た家族連れをよく見かけたものです。)

その様な幼少時代を過ごし、その後も魚への興味は薄れる事は無く、小学校の高学年くらいには一般的な魚の名前はもちろん、水族館で展示飼育されている様なあまり知られていないマイナーな魚の名前もその形状を見れば大体は分かる様になっていました。

中学生くらいになると幼少期には気にもかけていなかった魚の英名も目に入る様になりました。(たいていの図鑑では和名の他に英名(と学名(ラテン語))が併記されているのです。)
和名と英名を比較して読むと面白い発見がありました。

当時の私は「恐らく英名も和名の直訳であろう(またはその逆)」と安直な考え方をしていたのですが、辞書を片手に英名を読んでいくとそんな事は無く、同じ魚の和名/英名には意味的な可逆性が無いケースが殆どでした。そこから見出されるのはそれぞれの言語での名前のユニークさ。同じ魚でも日本語と英語それぞれでちょっとした「センス」が感じられるものや、面白い名前が見つかる事がありました。今日はそんな魚の名前を幾つかご紹介します。

 

 

リュウグウノツカイ」という魚がいます。和名を漢字に変換すれば「竜宮の遣い」。細長い白銀の刀の様なシルエットにパールピンクの美しいヒレを持つ深海魚です。生きた個体が見つかる事は極めて珍しく、稀に浅瀬に迷い込んだ個体が撮影されるとニュースにもなります。その美しい魚体もさることながら、深海からごく稀に浅い海へと顔を覗かせる様はまさにその名に相応しい神秘性を携えています。なお英名は「Giant oarfish」や「Ribbon fish」。前者は直訳すれば小舟の「オール」がその名に冠せられ、後者はそのまま「リボン」を連想させます。和英ともその魚体の美しさを見事に表現している名前であると言えます。

リュウグウノツカイ

 

世界最大の魚類である「ジンベイザメ」。サメの仲間ではありますが、プランクトン食性で非常に大人しく、人を襲う事はありません。名前の「ジンベイ」は和装の「甚平」の柄に由来します。深みのある青い体表に浮かぶ斑点模様が甚平の柄をイメージさせ、この名前が付けられたと言われています。英名は「Whale shark」。まさに大人しいクジラの様なサメでストレートな英語のネーミングもグッドです。

ジンベイザメ

 

サメ絡みでもうひとつ。「アオザメ」。魚類の中では最速で泳ぐ事が出来る凄いサメです。和名は体が青いからとそのまんまのネーミングなのですが、英語では「Mako shark」。興味深いのは「Mako」がマオリ語で「サメ」を意味する事です。直訳すれば「サメサメ」。名前が重複しています。マオリの言葉が英名に採用された理由は良く分かりませんが、異文化への敬意が込められている感じがして良い名前だと気に入っています。

アオザメ

 

キタマクラ」と言う縁起の悪い名前の魚は猛毒を持つフグの一種です。食べたら死に至るこの魚に仏教に由来する不吉な言葉を当てはめたのは、昔の人の見事なネーミングセンスといえるでしょう。一方英名は「Brown-lined puffer」。この魚は体の真ん中に細い茶色の線があるのが特徴なのですが、英名は見た目のまんまの名前になっています。

キタマクラ

 

今回は数例上げただけですが、他にも探してみると興味深い名前を持つ魚が沢山います。日本語と英語の名前を比較して紹介しましたが、各国の言語での名前を調べてみるとその国・地域特有の名前が見つかります。言うまでも無く魚類は世界中の人の生活に密接に関わる生き物です。同じ魚でもその国独自の表現があり、探ってみると国ごとの文化的な背景を垣間見る事が出来て面白いかも知れません。

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