中国の書について

最近は会社でのリモートワーク導入もあり、パソコンの中で行う業務も増えています。生活の中で文字を手で書く機会は減ってしまいました。私は学生時代に部活動で書道をしていましたが、そのころに比べたら、今久しぶりに手書きで文字を書こうとすると、ぎこちないような気がします。良い機会なので、書道について、特に古くからの中国の書道についてご紹介したいと思います。

書道というと、お正月の書き初めや、巨大な紙と筆を使った書道パフォーマンスなどのイメージを持たれる方も多いと思いますが、書道の作品には「臨書」といって、漢文や漢詩が書かれた中国の有名な書や碑文をお手本として書く作品があります。私は特に「千字文(せんじもん)」というものを習ったのが印象に残っています。「千字文」は、1000文字もの漢字が1文字も重複せずに並べられ、意味を持った漢詩になっています。日本の「いろはうた」の漢字版のようなものでしょうか。詩の内容は、「天地玄黃 宇宙洪荒…」と自然についてから始まり、道徳や、歴史についての部分もあります。日本語の解説を読みながら練習したことを覚えています。

「千字文」の詩は6世紀、梁の皇帝の武帝が命じて作らせたもので、たった1日でこれを作った文官は、その一夜の苦労で白髪になったという伝説があるそうです。武帝は王子たちに書を学ばせるために「千字文」を作らせたようで、そのとき模範としたのが王羲之(おうぎし)という4世紀に活躍した書家の筆跡でした。唐の皇帝・太宗(7世紀)も特にこの王羲之の書を愛好したようで、皇帝たちにとって王羲之の書をはじめとする美しい書はとても大切なものだったのだとわかります。太宗皇帝が買い集めたために、当時の民間人には王羲之の書を見る機会がなくなってしまいました。さらに皇帝が亡くなると、その墓所にそれらの王羲之の書が一緒に埋められてしまったのです。王義之の書いた原本の多くがこれによって失われてしまいました。多くの書が写したものしか残っていない、というのはなんとも残念ですが、逆に王義之の書が素晴らしいからこそ多くの写しが残されていたとも言えるのかもしれません。

書道の臨書の練習では、中国語で書かれている内容がわからなかったとしても、形や線の強弱をつくることや、様々な文字で紙の空間を埋めることに集中して楽しむことができます。しかし、美術館や博物館で臨書の作品や書道の歴史についての展示を観たりすると、今回紹介したような臨書の背景や逸話をたくさん知ることができ、別の楽しみ方も見つかります。中国語や中国のことも学ぶと、その内容をもっと深く理解することができ、ただ文字の形を楽しむだけではない書道の楽しみ方ができるのではないかと思います。

書道の世界は奥が深い。これからもゆっくりと文字を書いたり観たりする時間を持ち、様々な書に触れる機会を作りたいと、今改めて思います。

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