ニースの「海」と「山」

フランスで開催予定のラグビーワールドカップ2023、その開催都市の一つとなっている (ニース) は、地中海に面したCôte d’Azur (コート・ダジュール) (= 紺碧の海岸) エリアの中心都市であり国際的な人気リゾートだ。空港に離発着する飛行機の窓、空港と市街地を結ぶトラムの車窓、地中海沿岸を走る電車の車窓…どこからでも、Côte d’Azurの名の通り青い海を目にすることができる。青と言っても真っ青一色ではなく、濃淡や色味の異なる青が海岸から水平線まで、目の前いっぱいに広がる。Niceは一年を通して晴れる日が多いので、夏でも冬でも青天を映して煌めく海がいつも迎えてくれる。

「海」のイメージが強いNiceだが、実は「山」にも近いことをご存知だろうか。
近郊には「鷲の巣村」と呼ばれる、中世に外敵から守るために山の上や切り立った崖に作られた要塞のような村が点在しており、車でたった15分ほどのÈze (エズ) や、30分ほどのSaint-Paul-de-Vence (サン=ポール=ド=ヴァンス) などがある。
Saint-Paul-de-Venceは画家Marc Chagall (マルク・シャガール) が晩年を過ごした地としても知られ、現在も数多くのアーティストが現地で活動しており、壁に囲まれた小道を歩けば様々なギャラリーがいくつも目に飛び込んでくる、アート好きにはたまらない場所だ。そして何より、村そのものが美しい。ブーゲンビリアをはじめとする色とりどりの花で覆われた小道を歩いていると、絵心がなくても筆を執りたくなる。村を囲う壁から外に出て少しバス通りを戻れば村全体を見渡すことができ、そこに佇む中世の面影に一瞬で心を奪われてしまうだろう。

また近郊の山では、夏はトレッキングや山間を流れる渓流でのキャニオニング、冬は雪山でスキーやスノーボードが楽しめる。Niceから行きやすい雪山はいくつかあり、Auron (オーロン) やIsola 2000 (イゾラ・ドゥーミル) などは街の中心から車で1時間~1時間半ほどで行ける。
何年も前だが、私が初めてスノーボードをしたのはその雪山だった。ショップでスノーボードの乗り方や止まり方を少しだけ教わり、友人たちと初心者コースへ向かうとあの見慣れたベンチタイプのリフトが見当たらない。そこにあるのはくるくると旋回する、ただの長い棒だけ…それは、日本のゲレンデで見たことがないTバーリフトというものだった。Tを逆さまにしたような形状 (もしくはバーの下端が円盤型) で、両脚でバーを挟むか手で持ち、ボードやスキー板を滑らせながら引っ張られていく、というリフトだ。脚で挟む?ボードを滑らせる?降り方は?と考えているうちに順番が回ってきてしまった。流れて来たバーをグッと握ると、予想以上の強い力で体を持っていかれる (ように感じた)。乗ってみると自分で上手く滑れているかのように気持ちよく進み、もうこのままがいいと思ったが終わりが近付く。とにかく手を放してみたが、止まり方が分からない。他のスノーボーダーにぶつかる!崖から落ちる!と焦っていたら友人が手を引っ張ってくれ、転びながら無事に止まれた…あの時のTバーリフトは今でも鮮明に覚えている。

もし山でのアクティビティや「鷲の巣村」へ公共交通機関で出掛けるなら、電車よりバスがお勧めだ。電車は本数が少なく、着いた先で駅から町の中心まで遠かったり、そもそも電車が通っていない場所だったりするからだ。バスは交通網が発達していて本数も多く、停留場が目的の観光スポットに近いことが多いので到着後すぐに行動を開始できるなど利便性が非常に高い。バスは車より時間は掛かるが、例えばSaint-Paul-de-VenceならNiceから1時間ほどで行ける。

海外への渡航が再開され、これからヨーロッパを訪れる機会があるかもしれない。いつかNiceを訪れた際は、海だけでなくぜひ山にも足を延ばすことをお勧めしたい。地中海の鮮やかな青を目にした時と同じくらい、心を揺さぶられる景色がきっと迎えてくれるはずだから。

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