100年に一度の奇跡

「竹の花」をご存知だろうか。
青々とした竹か、枯れて茶に変色した竹しか私は見たことがなかった。いずれにしても、あの見慣れた細い葉しか思い浮かばない。
ある春の日、竹林を犬と散歩していた時に茶色の竹が見えた。今年も何本か枯れたのだろうと最初は思ったが、枯れたにしてはやけにふさふさしている。青竹よりもやけにこんもりして見える。そのまま近づいて見て驚いた。枯れた竹と色は似ているが、そこにあったのはいつもの細い葉ではなく、収穫時季の首を垂れる稲穂のような塊だった。それが、「竹の花」だったのである。

子どもの頃から竹林と共に育ってきたが、一度も花を見たことはなかった。そもそも、竹に「花」が咲くことすら知らなかった。調べてみると、60~120年くらいに一度、花を咲かせることがあるらしい。「らしい」と言うのは、未だにそのメカニズムが解明されていないからである。
花を咲かせるチャンスは、一生に一度しか訪れない。全身の力を振り絞って花を咲かせた竹は、青に戻ることはなくそのまま寿命を迎える。ただ枯れていく竹と、花を咲かせて終わる竹と、何が違うのかは分からない。一説によれば、増えすぎた竹が自らを間引くために花を咲かせて散っていくという。そうすることで、他の竹に太陽の光を存分に届かせ、次の竹へと命を繋いでいく。
また、種を落とすこともあるという。ただ、種を落として増えるという説は信じ難い。どんどん根っこを延ばしてあちらこちらから生えてくる竹を幼い頃から見てきたので、種がなくても嫌と言うほど増えるだろうに、と思ってしまう…

あまりの珍しさ故に、昔は何か悪いことが起こる前兆ではないかという迷信が生まれ、それが長く語り継がれてきたそうだ。実際に目にすると、見たことのない光景への不思議さはあるが恐ろしさは感じず、実りの秋を思わせる姿に思わず「わぁ」という感嘆の声が漏れる。一生に一度出逢うかどうか分からない、それほど稀有な現象との巡り会わせは正に「奇跡」だ。

大きく伸びた竹だけではなく、地面から顔を出したばかりの竹にも花が咲いているものがある。おそらく、同じ根っこを持つ竹はその大きさや齢に関わらず、一緒に命を燃やすのだろう。普段目にする彩り豊かな花は概して短い寿命だが、数ヶ月経っても竹の花は変わらず咲いている。
全身全霊で花を咲かせる竹。次に繋ごうとするその花を、枯れ落ちるまでもう少し愛でたいと思う。

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