学生時代、日本に暮らす外国の方に日本語を教えるボランティアをしていました。在住外国人の数は年々増えていて、2020年度末時点で288万人ほど、国籍・地域は194に上るといわれています。外国の方々が海外生活でぶつかる壁の一つが「ことば」。自分の母語で情報を得られることは何よりの安心です。最近、駅など様々な場所で多言語表記が進んでいると感じる方も多いのではないでしょうか。しかし全ての言語に対応するのは限界があるのも事実です。そこで注目されているのが「やさしい日本語」です。実は在住外国人向けの調査では、理解できる言語として「日本語」を挙げる人が6割を超え、英語(4割)を上回るという結果が出たものもあります。ボランティアでもお互いにわかる言語は日本語だったので、わかりやすい表現を使ってコミュニケーションをとっていました。今回はこの「やさしい日本語」について少しお話します。
「やさしい日本語」が生まれたきっかけは1995年の阪神・淡路大震災。在住外国人に、災害時の行動をどのように伝えるかが課題となったそうです。そこで、日本語を母語としない方にもわかりやすい表現を使うことが提案されました。今では災害時に限らず、自治体がホームページやSNSで発信する生活情報、ニュースサイト、病院の問診など様々な場面で使われはじめています。例えば、市役所などが発行している生活情報リーフレット。英語や中国語といった各国語版と並んで、「やさしい日本語」版が置かれていて、交通ルールやゴミ出しのマナー、緊急時の連絡先などが紹介されていました。交通ルールの紹介では、「車両」を「車・バイク・自転車」と具体的に言い換えるといったように、簡単なことばを使って、短文で伝えるという特徴がありました。
「やさしい日本語」では、伝えたい情報、必要な情報が短く簡潔にまとめられています。情報が整理されることで、「何を(WHAT)、どうするのか(HOW)」がわかりやすい文構造になっています。結果、外国人だけでなく、日本語母語の話者にとっても理解しやすく、相手の立場に立った表現になっていると感じました。また文構造が明確なので、「やさしい日本語」から他の言語へも翻訳しやすそうという印象も受けます。
一方、複雑な手続きや専門的な内容は「やさしい日本語」では表現しきれない場合もありますし、本来の意味が抜け落ちてしまうおそれもあります。そのような場面では日本語以外の多言語訳での対応が求められ、内容や状況によって翻訳との使い分けが必要といえそうです。
コミュニケーションの基本は「相手の立場に立つ」こと。「やさしい日本語」があれば翻訳は不要というわけでもないし、外国の方には外国語で対応をと決めつけるのもすこし違う気もします。「やさしい日本語」も含めた多言語対応が広がれば、情報を受け取る選択肢が増えます。多くの人にとって、ことばの面でやさしい社会になってほしい、またそうなるようなお手伝いができたらと思います。
<参考(在住外国人の数について)>
出入国在留管理庁「令和2年末現在における在留外国人数について」
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