機械翻訳を活用するためには

昨今、機械翻訳エンジンの実用化が進むにつれて、Google翻訳など、普段身近なところで翻訳サービスを利用する機会が増えてきたのではないでしょうか。翻訳業界では、欧州を中心に、ここ数年で急速に機械翻訳が浸透してきており、日本でも機械翻訳を導入している翻訳会社も少なくなく、今後さらなる活用化が期待されています。

人間翻訳と機械翻訳には、それぞれのメリットとデメリットがあります。

機械翻訳は、一般的には品質面ではまだまだ人間翻訳には及ばないと理解されていますが、その最大のメリットは、スピードとコストだと言えます。機械翻訳は、大量の文書を一度に翻訳することができ、人間よりも短納期・低コストでの翻訳提供が可能です。その一方で、機械翻訳が一定の品質を保つには、いくつもの課題があります。

今回は、機械翻訳の課題のひとつとされる、翻訳の品質が原文に左右される点についてご紹介したいと思います。

人間翻訳では、原文の微妙なニュアンスをくみとり、不完全な文でも文章として自然なかたちで訳文に再現することができます。つまり、翻訳の過程で原文を理解し、その意味をできるだけ失わせることなく、かつ訳文として読みやすい形に編集しているのです。

一方、機械翻訳では、翻訳するのは機械ですから、原文を機械的に訳文に置き換えることしかできません。つまり、翻訳の過程で原文の微妙なニュアンスは失われ、その結果再現されたものは自然な文章でないことがしばしばあります。実際の翻訳作業では、ここで機械翻訳が作ったものを訳文として適切な文章に加工する作業(ポストエディット)が必要となりますが、このお話についてはまた別の機会にしましょう。

機械翻訳は、小説や詩など文学的な味わいを楽しむ文章を翻訳するのには向いていません。逆に、技術書や学術文書、マニュアルなどパターン化された文章を翻訳するのには比較的役立ちます。原文の文構成や表現が直接的であればあるほど、機械翻訳の品質は向上します。

ここで、典型的な誤訳例をいくつかとりあげてみましょう。今回は英語からフランス語の事例です。

事例①:原文言語と訳文言語の文法が異なる場合。

英語:The power turns on when this button is pressed.
フランス語: L’appareil se allume quand ce bouton est appuyé sur.

これは、英語を直訳した結果、不自然な訳文になってしまった例です。
フランス語にもいわゆる受動態(passive voice)はありますがあまり常用されません。
この場合、 “you press this buttonと能動態(active voice)で表現するほうがより自然です。

正しい訳文:L’appareil se allume quand vous appuyez sur le ON/OFF bouton.

事例②:文脈によって翻訳結果が変わってくる場合。

英語: Do not touch the smartphone and the computer connected via USB cable.
フランス語: Ne touchez pas le smartphone et l’ordinateur connecté via le cable USB.

これは、文法は間違っていないけれど、訳文としては不適切な例です。
この場合、翻訳する際、connect(接続する)の目的語がスマートフォンなのか、コンピュータなのか、はたまたその両方なのか、文法的にはいくつかの可能性があり、そのどれかを判断する必要があります。人間が普通に考えると、スマートフォンがパソコンにUSBケーブルで接続されているのであれば、connectの目的語はthe smartphonethe computerの両方だと理解できますが、機械がその判断を正しく行うことはできません。

正しい訳文:Ne touchez pas le smartphone et l’ordinateur connectés via le cable USB.

事例②は、言語形式が大きく異なる日英翻訳で起こりやすいケースですが、文構造が異なる(語順が違うなど)言語間でもしばしば起こり、場合によっては致命的な誤訳につながります。また、これは機械翻訳だけでなく、人間翻訳でも起こりうる誤訳ですが、機械は人間とは違い、文脈や微妙なニュアンスを正しく理解することはできませんから、誤訳となって顕著に表れてきます。

さきほども申しましたように、機械翻訳には向き不向きがあり、原文はシンプルで簡潔かつ、ひと通りの意味にしか解釈できない文である必要があります(これはテクニカルライティングの主な手法でもありますので、機会があればお話したいと思います)。ひとつの方法として、翻訳する前のプレエディット(原文のリライト)で、表現の曖昧性を廃除するなど、機械が解釈しやすいようにうまく原文をコントロールすることで、機械翻訳でもある程度まで品質を引き上げられる可能性があります。

Google翻訳などの普及を考えると、翻訳作業を効率化するべく開発された機械翻訳は便利なツールですが、まだまだ品質面の課題を抱えています。ただ、人間の知恵によって、機械翻訳の課題を克服し、ある程度の品質を保つことは可能です。その際、人間が機械翻訳の特徴を理解したうえで、どのように活用していくかを方針づけることが成功の鍵となるでしょう。

機械翻訳について今後も注目していきたいと思います。

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