グローバル化が進む昨今、日本でも家電量販店でパソコンを探せば、「电脑」(電脳)という文字が目に入ってきます。また、駅でエレベーターを待っていると、傍の「电梯」(電梯)という表示を見て、中国語では「電動の梯子(はしご)」と書くのかと気付かされます。漢字からその意味を想像できる方も多いのではないでしょうか。
日本人にとって、中国語は学習経験がなくとも意味を推測しやすく、特に外来語はその特徴的な漢字から様々な気付きを与えてくれます。今回はそんな中国語の外来語の表記を紹介したいと思います。
4年ほど前に台湾を観光していた時、夜市で「熱狗」と書いた看板がある屋台を見て驚いたことがあります。これを初めて見て、何のお店かピンとくる日本人は少ないかもしれません。ですが、ソーセージを鉄板で焼く店員さんの姿を見るとすぐに意味が分かります。「狗」は、日本では「羊頭狗肉」といった表現で使用されるように「犬」を意味します。つまり、「熱」はHot、「狗」はdogでホットドッグのお店と分かります。
調べてみると、中国でも同じ訳語「热狗」が使用されるようです。ホットドッグが中国でも販売されるようになった時期は海外文化が流入してきた1980年代以降ではないかと想像できます。台湾ではもう少し早い時期に欧米の食文化が浸透している可能性がありますので、台湾で使用されていた訳語が中国に伝播したのかもしれませんね。
また、私が以前北京で仕事をしていた時、バーや高級レストランではカクテルを飲むことができました。今では世界中で親しまれているお酒ですが、カクテルを中国語では「鸡尾酒(鶏尾酒)」と書きます。英語ではご存じの通りCocktail。Cockは雄鳥、tailは尾ですね。その由来について、お酒を混ぜるスティックに鶏の尾が使われていたからとか諸説ありますが、中国語表記をみると、元の英語が連想しやすいことが分かります。
その他、スポーツ等のトーナメントの大会では、過去の実績などを考慮して一部の選手やチームを「シード」し、一回戦を免除することがあります。このような選手やチームを中国語では「种子(種子)」と言います。この単語、元の英語ではseedという単語で表現され、19世紀初めにテニスのトーナメントで優秀な選手を、種をまくように1か所に固まらないようにばらして配置したことに由来しているそうです。音だけを写した日本語からはその起源が分かりにくいと思いますが、中国語では「種」という漢字から想像できるかもしれませんね。
上の例は、英語を直訳し、その意味から中国語としての訳語を生み出したと言えます。一方で、「音」の響きから外来語を表記することもあります。例えば、マクドナルドは「麦当劳」(ピンイン表記でmài dāng láo)、ケンタッキー・フライドチキンは「肯德基」(kěn dé jī)となります。また、スターバックスは、「星巴克」(xīng bā kè)と書き、この場合は「スター」が「星」と訳されており、音を基礎としつつも、意味も含めた訳語です。その他、コカ・コーラは「可口可乐」(kě kǒu kě lè)と表記されます。こちらも同じく音をベースにした漢字表記と言えますが、漢文風に書き下せば、「口(くち)にすべし楽しむべし」という意味になり、音とともに商品宣伝の意図も加味した洒落たネーミングセンスを感じますね。
他にも、ドイツの自動車メーカーのフォルクスワーゲンは、中国語では「大众」(大衆)と表記します。こちらは会社名ではありますが、意味から訳語を生み出している例になります。フォルクスワーゲンは、1930年代にナチス政権の元で設立され、国策の一環として、その名称は「国民車」を意味するVolks Wagenと名付けられましたが、それが現在にも引き継がれています。中国語の社名の「大衆」からもそんな歴史を垣間見ることができます。
中国語は、日本語のカタカナ表記のような特別な表記方法(文字)がないため、外来語も基本的に全て漢字で表記します。そのため、その漢字からは、古くから使用される単語とは少し異なった、グローバル化が進む現代中国の雰囲気が感じられ、様々なルーツ、ネーミングに込められた想いや歴史を窺い知ることもできます。中国語の外来語にはこのようにユニークな訳語が使用される場合がたくさんあり、ここに紹介したのはごく一部です。皆さんも中国語の世界を探検してみませんか。色々な漢字を見ているとその魅力に取りつかれるかもしれませんよ!
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