高校1年生の夏、初めての海外、アメリカ。空港から滞在先への移動中にとても気になった単語は「lent」(貸出中)でした。建物の窓に「Lent」の貼り紙をいくつも見つけました。当時「Lent」の意味を知らなかった私は、たびたび目に入る「Lent」に、いったいどういう意味なんだろうといろいろ想像していたことを思い出します。
その何年か後、大学生2年生の冬、モスクワに留学しました。
モスクワでは、「ремонт」(レモント)が目につきました。これは建物の窓に限らず、あちらこちらに貼ってあります。ドア、公衆電話、トイレ、などなどです。なんだろう?エレベーターに貼ってあるのに行きあって、ようやくその意味を知りました。「修理中」です。いたるところ修理中だったのでした。学校では習わなかったけれど、現地で真っ先に覚えてしまった単語でした。
留学中に一番驚いたのは、夏の時期に行われるお湯用配管の交換工事です。モスクワでは、お湯も配管での供給式で、蛇口をひねればいつでもお湯が出てきますし、暖房にもお湯が使われます。冬の配管不具合は命に関わるので、毎年夏に配管交換工事が行われていると聞きました。交換工事中は、約2週間お湯の供給が止まります。高級住宅などは、自前の給湯設備があるため影響はないようなのですが、大学の寮にそんな設備があるはずもなく、夏の2週間をお湯なしで乗り切ります。夏なので平気なのでは?と思われるかもしれません。実は、モスクワでも夏はそれなりに気温は上がりますが、なぜか、水道の水は井戸の底の底からやってきたかのような冷たさなのです。その水で、シャワーを浴び、洗髪するのです。修行のようでした。夏、寮の廊下を歩いているとどこからか「うぉー」という声が聞こえてきて、あ、シャワー浴びてるのね、と思ったりしました。
そんな夏を乗り切った冬、今度は1日だけ水が出なくなったことがあります。蛇口をひねっても水が出ない。お湯は出る。お湯が出るならいいじゃない、と思われるかもしれません。しかしながらこのお湯、熱湯クラスのお湯なのです。熱すぎて触れない。歯も磨けない。お湯が出ないのとはまた違った大変さを味わいました。
また修理中だね、またお湯が出ないね、など困ったことに見舞われたときによく使うのは「ничего」(ニチェボー)。大丈夫大丈夫、大したことじゃないよ、気にしない気にしない、といった意味です。何が起こっても、ニチェボー、ニチェボー。生活していく上で大切な言葉であり精神だな、と思いました。
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