3年ほど前、東急線沿線情報誌「SALUS(サルース)」という冊子に、合成樹脂ではなく本漆で修繕を行う金継ぎ教室が紹介されており、以前から興味があった金継ぎを習い始めました。
「金継ぎ」とは陶磁器や漆器などの割れや欠けを漆で接着し、継いだ部分を金や銀の粉で蒔く修復技法です。蒔かずに漆塗りだけの仕上げも金継ぎといいます。
漆の活用は縄文時代まで遡り、実際に縄文時代の遺跡から漆による修繕の跡がみられる土器が発掘されています。金継ぎの歴史は諸説あります、今から400年以上前の室町時代の「茶の湯」に始まったといわれています。
基本的な金継ぎと蒔きをしたものを二点ご紹介します。
1. 湯吞み
好きな作家さんの湯吞みを愛用していましたが落としてしまい、いくつかに割れて復元が不可能のように見えましたが、金継ぎの技法で復元できました。これが最初の作品です。
金継ぎの手順:
- 強力粉に水を加えて練り、さらに漆を混ぜると「麦漆」になり、これが接着剤になります。
- バラバラの破片をパズルのように組み立てテープで留め、破片の側面に「麦漆」を塗り接着します。そして2週間ほど乾かします。
- その後はみ出し硬化した「麦漆」をカッターで削ります。
- 器の欠けた部分や段差がある場合は、砥の粉(砥石の粉)に水を加え、さらに漆を加えて練り合わせた「錆漆」(※)で埋めます。その後2週間ほど乾かします。
- 再び表面を紙やすりに水をつけて研ぎ、形を整えて錆漆の部分に漆を染み込ませて完成です。
2. 青い皿
湯呑と同様に割れた部分や欠けた部分を修復した後接合した部分に黒呂色漆を塗り、1時間ほど置いた後に銀で蒔きました。
本漆による金継ぎは手がかぶれ、乾くのに時間がかかり、また同じ作業を何度も繰り返すなど一朝一夕にはいかず、もどかしさを感じることがあります。そんな中で金継ぎを学んでよかったと思える気付きがいくつもありました。
① ものを選ぶ基準の変化
割れることを危惧して手頃な器に手が伸びがちでしたが、直すという手段を得ることで自分が本当にほしいと思うものを選びやすくなり、長く大切に使いたい気持ちが強くなりました。
② 思い出が甦る
修繕した湯吞みは母に贈ったもので、バラバラに壊れたものが元の形に戻って嬉しいと言ってもらえた時に、母が愛用してくれた姿を思い出しました。過去の記憶や思い出が甦ることも金継ぎの魅力と感じました。
③ 新たな魅力をまとったものとなる
欠損を美しく整えることで、傷のない器にはなかった新たな魅力をまとったものになります。傷を隠すのではなく、受け入れて大事にする技法なのだと学びました。
④ 漆芸の奥深さを知る
お稽古を通していろいろな漆の技法を教えていただき、展覧会に行っても興味深く観ることができるようになりました。
技法を習得するにはまだまだ時間がかかりそうですが、1か月に一度金継ぎに取り組む時間、先生や生徒の方々から伺うお話は人生に彩りを与え、忙しい日常の一時忘れる貴重な時間となっています。そのなかで新たな金継ぎや漆工の魅力を発見しながら続けていけたらと思っています。
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