タイ料理とハーブについて

タイ料理のトムヤムクンを召し上がったことはありますか?酸っぱくて辛くて甘い、タイ料理を代表するスープですが、色々なハーブが入っていて、食べるときにはよけなくてはいけません。緑色の小さなものを、これは大丈夫かと思って口に入れ、あまりの辛さに思わず水を飲んだ方もいらっしゃるでしょう。
今回は、そんなタイ料理とハーブについて書いていこうと思います。

私がタイ料理を初めて食べたのはタイのバンコクで、屋台の汁そばでした。バーミーナムと言って、細い麺に出汁のきいた汁をかけたもので、テーブルに置いてあるナンプラーやトウガラシ、チリのはいった酢や砂糖を好みでかけて食べます。スープの優しい味と調味料で自分好みに味付けできるのが楽しくて、昼の定番になりました。
タイ料理のレシピはタイ人の友人から教えてもらいました。「そぼろはあまりひき肉を細かくしない。」「春巻きに入れる野菜は、シャクシャクするように太く切る。」日本人の私が律儀に細かくしたり細く切ったりするのが、友人には不満だったようです。だからと言ってタイ料理が大雑把というわけではありません。料理の初めは、必ず大量のニンニクやポムデンという小さな紫色の玉ねぎの皮を、丁寧に剥くところから始まりました。

当時はシンガポールに住んでいましたが、タイ料理のハーブは普通のスーパーでは売っていません。シンガポールは人種のるつぼで、それぞれの民族が集うリトルチャイナやリトルインディアがあるのですが、友人はリトルタイに連れて行ってくれました。薄暗いビルに小さな露店のような店がたくさん入っていました。1階は食材や香辛料を売る店とレストラン、2階にはタイ料理を入れるうろこ模様の食器などを売る雑貨店や散髪屋が入っていました。香辛料と生ものの強いにおいが漂い、決して綺麗とは言えない場所でしたが、グリーンカレーやガパオに入っているタイのバジルが山積みになっていのを見て、大興奮したのを覚えています。

トムヤムクンに入っている香辛料の一つがカーです。カーはタイのショウガで、スパイシーな香りがタイ料理に独特のアクセントを添えます。トムヤムクンの他にはグリーンカレーにも入っていますが、ここでは魚介の土鍋蒸し(クン・オプ・ウン・セン)をご紹介したいと思います。土鍋の底にスライスしたカーとパクチーの根っこの部分をいれ、その上にキャベツのざく切りをのせます。重ねて水で戻した春雨とガーリックオイル、オイスターソース、玉ねぎのスライスしたものを混ぜてのせ、最後にマギーシーズニングとブラックペッパーで味付けした海老やカニをのせます。あとは蓋をし、直火で8-10分蒸すだけです。魚介のうまみが下に落ち、下からカーとパクチーの香りがたちのぼり、キャベツと春雨にしみこみます。
これを初めて食べたのは、タイの観光地、ホアヒンでした。浜辺のシーフードレストランでカニを食べたいと伝えると、おすすめ料理があるということでだしてもらいました。シーフードといえばゆでたり焼いたりしたあっさりした料理を想像していたのですが、ガーリックやカーの香りのきいたコッテリした土鍋蒸しは、タイのシンハービールともよく合って、夢中で食べました。

そのレストランではBGMにタイの音楽がかかっていたのですが、私たちが土鍋蒸しを食べていると、急に細川たかしの「北酒場」が流れてきました。驚いて周りを見ると、みんなにこにこしています。まだタイの郊外には「地球の歩き方(紙版)」を握りしめていくような時代でしたので、日本人は私たち以外皆無です。お店の方が、遠くから来たであろう私たちにサービスしてくれたのだと思いました。鄙びたタイの浜辺の夕暮れ時、豆電球のちかちかするシーフードレストランで「北酒場」を聞きながら土鍋蒸しを食べる。思い出すたびに笑ってしまう、忘れられないタイの思い出です。

冒頭で書いたトムヤムクンに入っていた、緑の小さくて辛い物はプリッキーヌーといってタイのチリです。タイ語では「ネズミの糞」という意味になります。タイ人の友人は「これはプリッキーヌー、ネズミの糞ね」といたずらっぽく笑って教えてくれました。タイ料理に欠かせない辛さの源、皆が愛してやまない食材を、親しみを込めて「ネズミの糞」というタイの方々の、飾らない人柄とユーモアを感じます。

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