言語が「似ている」とは?

みなさんは「○○語と△△語は似ている」という話を耳にしたことがありますか?私は、「スペイン語とイタリア語は似ている」や「日本語と韓国語は似ている」など、何度か聞いたことがあります。

でも、そもそも言語が「似ている」とはどういうことなのでしょう?

言語の話に入る前に、人が似ている場合を考えてみましょう。AさんとBさんが似ている、と言われたとき、どこが似ているの?と聞きたくなりませんか。目鼻立ちが似ているのか、声が似ているのか、あるいは性格が似ているのかによって、同じ「似ている」でもかなり違いがありますね。

同じように、言語が似ていると言っても、どこがどのように似ているのかによって大きく印象は変わります。もしかすると、それだけの共通点ではあまり似ているとは言わないのでは?と感じる場合すらあるかもしれません。

もちろん、細かく共通点を見つけ出して言語がどの程度似ているかを見ていくこともできなくはないのですが、ここでは一般的に「似ている」と言われるのはどのような場合なのかについて考えてみたいと思います。

1.お互いに理解し合える

まずはじめに、これならば間違いなく「似ている」と言えるケースを取り上げてみましょう。2人が母語同士で話をして、相手の使っている言葉が自分の言葉とは違うと感じるけれども、お互いに理解し合えるという場合です。

出身県の隣の県の方言を考えてみるとイメージしやすいと思います。相手の話していることは聞けば分かるし、自分の使っている方言も分かってもらえる。でも、どこか違う言葉だな、と思える場合です。大まかに言ってこの程度の違いしかない言語も、世界にはたくさんあります。

例えばチェコ語とスロバキア語。あるチェコ語の先生によると、チェコ人とスロバキア人は95%相互理解ができるそうです(注1)。このくらい理解できるのであれば、まず似ていると言って間違いはなさそうですし、人によっては、ほとんど同じ言語とさえ言う人もいそうです。

チェコとスロバキアは隣り合った国ですが、ただ地理的に近いことだけが言語が似ている理由ではありません。次の項目も関係しています。

2.系統関係が同じ

世界の言語はグループ(専門的には“語族”や“語派”などと呼ばれ、インド・ヨーロッパ語族やアフロ・アジア語族などがあります。)ごとに分けられ、1つのグループ内の言語は、歴史的には1つの言語に辿れるといいます。言いかえれば、元々1つだった言語が時間をかけて分化したということで、共通の祖先をもつ子供同士のようなものなのです。実は、1.で挙げたチェコ語とスロバキア語は、インド・ヨーロッパ語族スラブ語派西スラヴ語群という同じグループに属します。

ところが、同じグループ内であるにもかかわらず、そこまで似ていない場合もあります。例えば、英語とドイツ語はインド・ヨーロッパ語族ゲルマン語派西ゲルマン語群という同じグループに属します。

上の例文を比べて、似ているように見えるでしょうか。一見したところ、似ていないように思う人もいるかもしれません。でも、文法のしくみや単語など、よく比べてみるとやっぱり似ているところはあります。ただ、よく比べてみないと違って見えるというのは、祖先は同じ言語であっても、分化してから長い時間が経ったり、他の言語から影響を受けたりなどしてそれぞれ独自の変化を遂げてきたのが理由です。

この他にも、2つの言語がそっくりではないとしても、似ている特徴を持っていると言われる場合があります。次にそれを見ていきましょう。

3.近隣の言語から影響を受ける

いつも一緒にいる友人や恋人のしぐさや口癖が移ったりすることがありますね。それと同じように、系統関係が違っていても、近隣地域で使われる言語から影響を受けてよく似た特徴をもつようになる場合があります。

例えば、バルカン半島で話される言語は、系統関係はバラバラでも共通の特徴をもつことが知られています。(注2)

それぞれ語末のaтаaが定冠詞(英語でtheにあたるもの)になっているのですが、語末に冠詞が付くという特徴を共通で持つようになったのは、近隣の言語と影響しあった結果と考えられています。

4.借用語

地域は遠く離れていても、アラビア語でも、インドネシア語でも、スワヒリ語でも「時間」を指す単語がよく似ている、と言ったらびっくりされるでしょうか。でも、これは借用語として広がった単語です。

実際、このような借用語はどの言語にもあるように思います。元々日本語だと思われがちな単語の中にも、「イクラ」はロシア語からの、「ポン酢」はオランダ語からの、「合羽」はポルトガル語からの借用語です。こういう意外な例でなくても、日本語は中国語と英語からのたくさんの借用語がありますし、同じように英語はギリシャ語から、フィリピン語はスペイン語から、ベトナム語は中国語からたくさんの借用語があります。このように、単語は世界を飛び回っているので、隔たった地域でよく似た単語が使われることもまれではありません。

5.語順

「日本語とXX語は似ています、なぜなら語順が同じだから」ということも言われる場合があります。ただ、学生時代のことを少し思い出していただきたいのですが、英語の語順を習ったとき、S(主語)とV(動詞)とO(目的語)ってありましたよね?

ある研究によれば、世界の言語の約40%は英語と同じ語順(SVO)、約50%は日本語と同じ語順(SOV)で、合計で約90%も占めるそうです(注3)。そう考えると、世界の言語から適当に2つを選んだ場合でも、かなり高い確率で語順が同じになりますので、語順だけを見て言語が似ているというのはちょっと言いすぎかもしれません。

6.おわりに

これまで見てきたことからお分かりになるように思いますが、ただ「○○語と△△語は似ている」と言うとき、何がどの程度似ているかを言わずに、印象で決めている場合が多いように思います。私たちは、たった1つの共通点であっても「よく似ているなぁ」と感じるときもあるし、共通点が多くても、差が気になると「全然違う」と言いたくなるものなのかもしれません。

(注1)Wikipedia「チェコ語」(2022年2月9日時点)

(注2)Wikipedia “Aire linguistique balkanique”(フランス語版、2022年2月9日時点)

(注3)Wikipedia「言語類型論」(2022年2月9日時点)

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