Futebolês – サッカーのポルトガル語

今年11月、カタールで中東初のワールドカップが開催されますが、前回2018年のロシア大会において、出場32か国中最も話されていた言語はスペイン語で8か国、次がアラビア語とフランス語で4か国、ドイツ語と英語で3か国と続き、ここでようやく今回ご紹介するポルトガル語(ブラジルとポルトガルの2か国)が登場します。
出場国の数こそ少ないのですが、ポルトガル語は1930年から続くワールドカップに唯一全大会出場し、最多の優勝回数を誇るサッカー大国ブラジルの公用語です。同じくポルトガル語を公用語としているポルトガルは、東京都よりも少ない人口1千万人ほどの国ですが、近年はめきめきと力を付けてきており、ワールドカップや欧州サッカー選手権といった主要な国際大会でもかなりの好成績を収めるようになってきました。一般的にはクリスティアーノ・ロナウド選手の出身国、という印象が強いのではないでしょうか。
さて、題名に挙げた「Futebolês」ですが、一般的にブラジルでは「フチボレース」、ポルトガルでは「フトボレーシュ」と発音されます。これはサッカーを意味する「Futebol」と、国籍や言語を示す接尾辞「ês」から出来た言葉で、「サッカー特有の用語、言い回し」という意味になります。
ポルトガル語は世界における話者数の分布から、主にブラジルで話される「ブラジルポルトガル語」と、ポルトガルやアフリカ諸国で話される「欧州ポルトガル語」に大別されます。日本でポルトガル語というと、その市場規模からブラジルポルトガル語を指す場合がほとんどで、日常で欧州ポルトガル語に触れる機会はほとんどないと言っても過言ではありません。「じゃない方」という言葉が流行って久しいですが、今回はそんな「じゃない方」の欧州ポルトガル語のサッカー用語にほんの少しですが触れてみたいと思います。

• 守るのはゴールじゃないの?

ゴールキーパーのことを「Guarda-redes」(グアルダ・レーデシュ)と言います。「Guarda」は「番人」、「redes」は「ネット(網)」のことを指します。ブラジルポルトガル語では「Goleiro」(ゴレイロ)と言います。こちらの方は「ゴール」がありますね。

• 鍵はしっかりと

攻撃と守備のつなぎ役を務める、中盤の下がり目の選手のことを「trinco」(トリンコ)と言います。

「(鍵の)掛金」のことを意味し、攻撃と守備のつなぎ役を務める、中盤の下がり目の選手のことを指します。ブラジルポルトガル語では「Volante」(ボランチ)と言います。「ハンドル」の意味で、こちらの方が日本のJリーグなどでも日常的に使用されているため、耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

• そのプレー、脱帽です

対戦相手の頭越しに意図的にボールを通して抜き去るプレーのことを「Chapéu」(シャペウ)と言います。「帽子」という意味なので「脱帽」を指すのかと思いきや、ボールを帽子に見立てたことから生まれた表現のようです。ブラジルでも用いられます。

• 頼りになりますね

ゴール前のあらゆるピンチを未然に防ぐ選手のことを「Bombeiro」(ボンベイロ)と言います。「消防士」のことですが、野球でもピンチで登板する投手を「火消し役」と呼んだりしますね。

• お膳立てはバッチリ

素晴らしくコントロールされた丁寧なパスの事を「Passe de bandeja」(パス・ドゥ・バンデージャ)と言います。「Passe」は文字通り「パス」のことで、「bandeja」は物を運ぶ「盆」や「トレイ」を意味します。「de」は英語の「of」に相当するものです。つまり、「お盆に載せたパス」という意味です。日本語の「お膳立て」に通じるところがありますね。

• 贈り物をありがとう

ゴールキーパーが簡単に防げるシュートを後逸してゴールを許してしまうことを「Frango」(フランゴ)と言います。「鶏」の意味なので、慌ててバタバタするイメージかと想像しますが、実はその起源ははっきりしていません。一説には昔習慣として偉い人に鶏をお礼の印に贈るという時代があったそうで、相手にゴールをプレゼントする、ということのようです。こちらはブラジルでも同じ単語が用いられます。

• 罰が当たりますよ

ゴールに関わる決定的な場面において、審判によって明らかに相手寄りの判定がなされることを、「Roubo de igreja」(ローボ・ドゥ・イグレージャ)と言います。「Roubo」は「窃盗」、「igreja」は「教会」を意味します。つまり、「教会に対する窃盗行為」という意味になります。ポルトガルは敬虔なカトリックの国ですので、そのくらいやってはいけない罪深い判定だ、ということになるのでしょうか。

• 楽勝です

余裕で勝利してしまう試合のことを「Passeio」(パセイオ)と言います。「散歩」の意味ですが、こんな風に言われてしまう相手チームはかわいそうですね。

• うまいだけではダメ

目を奪われるような鮮やかなドリブルを見せつける一方で、そのプレーをゴールに結びつけることが出来ない選手のことを「Brinca-na-areia」(ブリンカ・ナ・アレイア)と言います。「Brinca」は「遊び」、「areia」は「砂」を意味します。「na」は英語の「in the」をひとまとめにしたものに相当します。つまり「砂遊び」という意味になります。結果は大事ですね。

• 罪深い天使

試合中、その局面では有り得ないプレーをしてしまい、味方チームをピンチに陥れてしまう選手のことを「Anjinho」(アンジーニョ)と言います。この言葉は、「天使」を表す「Anjo」(アンジョ)と、「小さい」を表す接尾辞「inho」(イーニョ)から作られています。さしずめ、「天使ちゃん」といったところですが、褒め言葉ではないところが悲しいですね。

さて、ここまでいくつかの言い回しをご紹介してきましたが、これらは数あるポルトガルのサッカー用語のほんの一部に過ぎません。ブラジルや他のポルトガル語圏のものも加えるとその数は千以上あるとも言われます。サッカーはイギリス発祥のスポーツ、というのが通説でもあり、私たちが日常耳にするサッカー用語も英語から生まれたものがほとんどですが、時にはこうした他の言語の表現を調べてみると楽しいかもしれません。

参考資料:Luís Miguel Pereira: “Dicionário do Futebol” (Booktree, 2002)

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