アメリカのベースボールにあって、日本の野球にないもの

私事だが、1986年からの1年間のAtlanta遊学以来、メジャーリーグベースボール(MLB)のファンになり既に35年が経過した。昨年大谷選手がMVPを獲得し野球ファンを熱狂させたように、今でこそ、MLBは日本人にとって身近な存在であるが、1995年の野茂投手のMLB挑戦以降に日本人選手の渡米が活発化する以前は、今ほどの親近感はなかった。1978~86年にMLBで活躍した人気選手のBob Hornerは、翌87年に来日しヤクルトスワローズでプレイした後に『地球のウラ側にもうひとつの違う野球があった – Eureka! Different Baseball Across the Globe -』という著書で日米野球観の違いに言及しているが、ベースボールと野球はプレイスタイル、その文化的な背景も似て非なるものである。今回はMLBフリークのマニアックな視点から、日本で使用される野球用語や背景にある日米文化の相違点を紹介したい。

Atlantaから帰国後、日本の野球で使われる英語で違和感をもった代表例はStopperだった。野球ファンならご存知だろうが、合計9イニングのうち、最初に登板する投手を「先発」、最終1イニングに登板する投手を「ストッパー」と呼ぶ。一方、英語では「ストッパー」をCloser と言い、Stopperはむしろ先発投手が連敗をストップした時の文脈で使われる。Stopperが日本でいつまで使われるかと危惧したが、日本人投手の多くがMLBでCloserとして活躍したことで、いつの間にか「クローザー」の使用頻度が増え、「ストッパー」は使われなくなった。
また、アメリカでは試合結果を記載するボックススコア(Box Score)や統計も日本よりはるかに細かい。例えば、先発投手で有名な指標はQuality Start (6イニングを3失点以内に抑えること)であるが、それ以外でも、救援投手のInherited Runners(降板時にその投手が残した走者数)とInherited runners who Scored(登板時に残されていた走者のうち何人得点を許したか)がある。さらにはCloserにはBlown Saveという指標もあり、日本でもお馴染みの「セーブ」(Save:Closerが試合終了までリードを守った場合に与えられる指標)が付く状況で登板をしたにも関わらず、リードを守れない場合につく不名誉な記録である。洋の東西を問わずCloserの仕事は、Save Opportunityに対して何度セーブに成功したかと、同点で登板した時に得点を与えないことであるが、日本ではセーブ失敗はあまり顧みられない。
一方、打者では得点圏(ランナーが二塁または三塁にいる場合)打率は当然のことながら、Close / Late打率というデータがあり、7回以降1点リードあるいは同点、またはリードされていて同点になる走者が塁にいる状況での打率で、ゲーム終盤の接戦でいかに勝負強いかを示す指標になる。

数字と選手の寸評のバランスが良いのが、アメリカで毎年発行されるBaseball Prospectsで、2021年度版総頁数1200弱、若手有望株から、日本によく来るトリプル・エー(Triple A:メジャーリーグ傘下のマイナーリーグ最上位のカテゴリー)とMajorの中間位の選手まで網羅し、読み応えと言う意味では右に出る刊行物はない。
この細かさは、数字の裏側にあるものを客観的に別の数字から見るという、アメリカ人の習性を表していると思う。日本人はなんとなく得点圏打率、防御率(投手が1試合を平均何点に抑えたかを示す)、セーブ数というポジティブな数字に弱く、その裏にあるものを追求しない気がする。本来であれば、得点圏打率と同様に、投手の得点圏での被打率も注目されるべきだし、どれだけセーブ数が多くても失敗が多ければ信頼に足る投手ではない。
MLB各チームのウェブサイトに掲載される試合結果のBox Scoreとスタッツ(STATS:statisticsの略で各種成績をまとめたもの)を見ると日本の野球とは違った記録があるので、この記事を読んで興味が湧いたのなら是非一度覗いてみていただきたい。

<参考>
『地球のウラ側にもうひとつの違う野球があった – Eureka! Different Baseball Across the Globe -』(ボブ・ホーナー著、安西達夫訳、1988年、日之出出版)

MLB公式Box score記載サイト:MLB Scores: Real-time baseball scores and highlights

MLB公式スタッツ記載サイト:2022 MLB Player Hitting Stats | MLB.com

Baseball Prospects 2022年版:2022 Baseball America Prospect Handbook

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