イデアの絵本ー耳なし芳一

イデア・インスティテュートでは毎年1冊「日本文化」をテーマにした複数言語併記の絵本を作成しています。ホームページでも数多く紹介させていただいていますが、その中に1冊だけ表紙に「絵」がない絵本があります。(もちろん本文中にはあります!)

それは「耳なし芳一」です。子供の頃からタイトルは知っていたものの、ずっと避けて通ってきた物語でした。小学生のとき、教室のうしろのほうに置かれていた学級文庫にもあったのですが、誰かが「耳を切り落とされちゃう話だよ」と言ったのを聞いて「そんなぞっとする話読みたくない」と、絶対手に取りませんでした。
以来、お化けに耳を切られる話としてしか認識していなかったのですが、自分が働く会社で作成したとなると、お客様に内容を説明するためにも中身を知らないままでいるわけにはいきません。それにこの本の表紙は「弊社作成の絵本です」というわりには絵がなく、黒地に白抜きでお経が記載されていますので、海外のお客様からはそれについて何か聞かれる可能性はあり、そのとき説明できないというのも困ります。
そういうわけで大人になってからようやくきちんと読んだのでした。

小学生の時とは違い、源平の史実や琵琶法師の存在、平家物語のことなど、中学や高校の授業で学んだ知識を頭に置きながら読むことができたこともあり、ただの怖い話なのではなく日本の歴史や文化を振り返ることができるお話なのだと分かりました。
ただ英語でうまく説明するのはなかなか難しく、海外の方向けの英文での説明については知人のネイティブスピーカーに相談してみることにしました。私のたどたどしい英語の説明に対して「それはこういうことか?」といった質問をされたりするなど、あれこれとやり取りが続いたのですが、そんなふうに物語に関して他者とやり取りしてみたら物語に対してそれまで私が持っていたのとは別の印象が生れました。
それまでは、平氏の亡霊に取り憑かれた芳一がひどい目に遭ったという視点で物語に向き合っていたのですが、滅亡した無念が平氏にとっては相当なものだったのだなと考えるようになったのです。栄華を極めた時代を追想したい気持ちから平氏の亡霊が芳一に取り憑いてしまったのだと考えると、怖い話というだけで片付けられない、しんみりした気持ちになりました。

ここからは余談になりますが、2007年に作成した「耳なし芳一」の絵本は、その後2017年に作成した絵本と少しつながりがあります。
すでに知られているように、「耳なし芳一」の話は江戸時代に『臥遊奇談』として出版されたものを原典としてラフカディオ・ハーン(小泉八雲)が書き改め、1903年にアメリカの雑誌にも紹介されています。ラフカディオ・ハーンは熊本市の学校で英語教師をしていたこともあるのですが、その学校の校長先生が嘉納治五郎さんという、1940年の東京オリンピック招致に成功した人物でした。
イデア・インスティテュートの2017年の絵本のタイトルは『嘉納治五郎―その生涯と精神』です。こちらもお薦めです。

 

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