テクニカルライターを目指す人へ ~どんな知識を持っておくべきか?~

振り返ってみると早いもので、イデアで筆者がマニュアルなどのテクニカルライティングに携わって、はや15年。それ以前の雑誌やマニュアル関係でのライティングの経験を加えると、30年近く「物を書く」ことを生業にしてきたことになります。
かなりロートルな筆者ですが、今回は、テクニカルライターになるにはどういった知識を持っておくべきか? について紹介したいと思います。

テクニカルライターとは?

技術的な仕組みや製品を理解した上で、マニュアルなどのライティングができるライターのことを「テクニカルライター」と呼びます。単に文章を書くのがうまいだけではダメで、製品に採用されている技術や仕組みなどを踏まえ、使用するユーザーに噛み砕いた平易な表現で情報を伝えるのがテクニカルライターの仕事です。

きちんとした文章を書けるようになるには

当たり前のように聞こえますが、実際のところ、筋の通ったロジックと起承転結で、読み手を意識した読みやすい文章が書けない人がいます。活字をたくさん読み、文章を書く機会が多かった人とそうでなかった人とでは、その差は歴然です。端的にいえば、“訓練の差”です。経験上、他人の書いた原稿を読む機会も多かったのですが、あまり訓練してこなかった人の原稿を見ると、主旨が見えない、余計な情報が多い、脇が甘い(主張する論点が簡単に覆ってしまうような書き方)といった部分が散見されます。

出版関係の仕事のときには、プロの校正者のお世話になりました。業界では有名な古株の方で、ご高齢にもかかわらず、誤字や脱字を一切見逃がさず、毎回、記事が面白かったかどうかの感想までいただいて、それをモチベーションに面白いと言ってもらえるような記事を書こうとあがいていたのはいい思い出です。
まだ思うように原稿が書けなかった頃に、酒席の場でうまく書けるコツを伝授してもらおうと聞いたときに帰ってきた言葉は、“とにかく読みまくること”、“とにかく書きまくること”――の2点でした。つまり、読みまくって、書きまくって訓練せよ!というわけです。
訓練不足の人は、いかに年期を重ねても、ずっと同じレベルのままでうまい文章は書けません(というのをよく目にしました)。このため、なるべく若いうちから訓練しておくのは、かなり重要なポイントでもあります。

突然、ブレイクスルーがやってくる

書くことに慣れていない人は、まずテーマを決め(なんでもいい)、テーマに沿って書く要素を箇条書きで洗い出すことを徹底しましょう。主旨がボケたり、ロジックが破綻したり、脱線したりするのは、自身がテーマを咀嚼して整理しきれていないからです。日記でもいいし、映画や書籍の感想をブログに書くなどでもいいので、各要素を洗い出してから書くという訓練を続けていきましょう。すると、どこかの段階でブレイクスルーがやってきます。

どういうことかと言うと、例えば400字詰め5ページで原稿を構成する場合と、400字詰め2ページで構成する場合とでは、当然、起承転結の各要素に配分する文字量は変わってきます。こうした文字量の配分や、各要素についてどれぐらい書くか(重みを変えるか)といった判断が、訓練を続けていくと、なんとなく頭の中でできるようになってきます。まず目指すのはこの領域で、ここに到達すれば、多くの場合、書き始める前の事前準備は必要なくなります。情報の整理さえできていれば、大仰に言ってしまえば、何かが下りてきたようにスラスラと筆(キーボード)が進みます(大抵の場合は)。一発で思い通りの原稿になることはほぼないので、些末な部分は無視して少々書きすぎてもそのまま書き上げます。その後、第三者の視点で推敲する際に、些末な部分の修正、省略・削除する部分を判断して整えますが、事前準備により頭の中で整理ができていると、悩むことなく断捨離もできるものです。

実際のところ、マニュアルのライティングにおいては、文才はほぼ必要としません。ほとんどが操作手順やご注意といった類だからです。しかしまったく必要ないかというと、そうでもなくて、例えば、製品の特長を紹介するページなどでは、キャッチーな表現を使うこともありますし、読み手を引き込む表現の工夫が必要になることもあります。なにより大事なのは、事前準備によって頭を整理することです。これはライティングそのものだけでなく、ユーザーにいかに読んでもらうかの観点で、マニュアルの構成を考える“構成力”を身につけるための訓練にもなります。

テクニカルな知識とは?

さて、ここからが本題です。
うまい文章を書くこと自体は最低限の資質であり、単なる土台でしかありません。うまい人はいくらでもいます。冒頭で書いたとおり、技術的な仕組みや製品を理解し、それを噛み砕いてユーザーに情報を提供するのがテクニカルライターの役割です。

マニュアル制作の過程では、製品のハードウェアの設計者やアプリの開発者、商品企画の担当者などから開発中の新製品についての事前説明を頂ける機会があります。そうした場合に、まずもって相手の話す内容が分からないでは話になりません。
具体的な例を挙げると、「今回の製品ではBluetoothのBLEに対応します。」と説明があった場合、即座に、前回の製品は、Bluetooth通信時の消費電力が大きく、BLE(Bluetooth Low Energy)(低消費電力の規格)に対応させることで改善するのだな?と見抜けるぐらいの知識は必要で、「今回の製品は急速充電に対応しています」と言われれば、それが後述する標準規格のUSBの“Power Delivery”のことなのか?あるいは、独自に設計・開発された急速充電の仕様なのか? このぐらいの質問が即できるぐらいの知識は必要です。

まずは標準規格と消費者より上の知識を!

現在、コンシューマー向けの製品で採用されている代表的な標準規格(BluetoothやUSB、Wi-Fiなど)については知っておくべきです。
標準規格というのは、メーカー独自の規格ではなく、世界標準として策定されている規格のことです。標準規格を採用して開発された製品は、一部の例外を除けば、性能や操作の手順はほぼ同じですので、ライティングでどんな内容を書けばよいかは、おおよそ調べがつきます。ただし、参考にするサイトは要注意。まず参考にしたいのは、同じメーカーの同じ規格を採用する既存の製品のマニュアル(誤記がある可能性もあるので100%は鵜呑みにできない)。そして次に参考にするのは、標準規格や技術の概要がまとめられたサイトです。

参考にして欲しいのは、ご存知の方も多いと思いますが、“ウィキペディア”。規格や技術の概要がうまくまとまっているのが便利な点ですが、加えて便利なのは、規格を策定している団体のホームページへの外部リンクが用意されていることです。例えばBluetoothであれば“Bluetooth SIG”、Wi-Fiであれば“Wi-Fi Alliance”などなど。
つまり、一次情報にたやすくアクセスできる点がポイントです。情報の確度の観点でいえば、一次情報に勝るものはないので、代表的な標準規格について正確な知識を得るには、ぜひ活用したいものです。標準規格を理解しておくことは、開発者や設計者、製品の企画担当者とのコミュニケーションにも間違いなく役に立ちます。

代表的な標準規格の理解以外にも、iPhoneやiPad、Android OSを搭載するスマートフォンやタブレット、Windows OSや macOSなどに対する知識も必須です。というのも、最近のコンシューマー製品の多くは、パソコンやスマートフォンと連携する機能を持つものが多いためです。スマートフォンやタブレットを使いこなす小学生や中学生などのデジタルキッズが当たり前の昨今、彼らに知識で負けていては、正直なところ、テクニカルライターとしては厳しいのではないかなと思います。
こうしたデジタル機器やOSについての知識をどのように学ぶか? そのノウハウについては別の機会に改めて紹介したいと思いますが、目安としては、①ガジェット好きな一般の消費者よりも知識は上でなければならない、②標準規格については広く理解していること――この2点がまず、最初のボーダーラインと考えるといいと思います。これに例えば、趣味レベルでかまわないですが、プログラミングしたことがある、HTMLやCSSを触ったことがある、電子工作をやったことがあるといったプラスαがあると、テクニカルライターとしては非常に有利になります。広く浅く興味を持ってため込んだ知識が、ライティングや製品の理解へと必ずつながってきます。製品の開発者ではないので、“深く”ではなく、“広く浅く”です。

――と、徒然に自分なりに思うところを書きなぐってきたわけですが、この記事を推敲している最中に、面白いニュースが飛び込んできました。

iPhoneやiPad、iMacでお馴染みのAppleが、ついにLightningコネクターを完全に廃止するそうです。
一般のユーザーから長らく不評を買っていたLightningコネクターですが、EUの欧州委員会(EC)は、2024年秋以降、EU圏内で販売されるすべてのモバイル機器(スマホやタブレット、ノートPC、ゲーム端末、ヘッドホン、カメラなど)は、充電ポートに“USB-C(USB Type-C)”を採用していないと販売させないという法案を可決し、以前からAppleに圧力をかけていました。これを受けて、Appleもようやく重い腰を上げたといったところです。

SNSではかなり話題になっていますが、実はこれ、ユーザーが期待しているUSB-C(USB Type-C)ではないかもしれない、といった話も出ています。そんなホットな話題もスルっと頭に入ってこないといけません。USB-C(USB Type-C)はどんな規格なのか? まずはここをとっかかりに、一般のユーザーにどうして長らく不評だったのか? ユーザーが期待するUSB-C(USB Type-C)でない可能性とはなんなのか? 興味が沸いた人は、そのあたりを調べてみてはどうでしょう?(答え合わせは次回!)
“USB-C(USB Type-C)”と聞いて一般の人の多くが誤解しがちな一つの落とし穴があります。「なるほど!そういうわけか!」と合点がいけば、まずは及第点。なぜAppleがLightningコネクターにこだわってきたのか、なぜユーザーが期待しているUSB-C(USB Type-C)を採用しないことになり得るのか?

ここまで想像できたら、テクニカルライターとしてかなり脈ありです! ぜひ、イデア・インスティテュートまでご連絡ください。

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