
素敵な絵本は世の中にあふれています。一番なんて選べませんよね。
一番かどうかはさておいて、なんだか手に取っちゃう絵本、ってありませんか?
わたしにとってそれは『ぐり と ぐら』です。
お料理好きの、野ねずみ『ぐり』と『ぐら』が森の奥へ出かけたときのお話です。
自分たちの背丈と同じくらいの大きな卵に出会いますが、大きすぎて持ち帰れません。
ふたりは話し合いの末、卵が落ちているところにフライパンなどの道具や小麦粉などの材料を持ち込んで、その場で焚火を作って大きなカステラを焼くことに決めます。
その後、カステラを焼くいい匂いに誘われて森のあちらこちらから様々な動物たちが集まってきて、皆でふわふわのカステラを味わい、最後には卵のカラを使って…?
素敵なオチが付いた物語です。
1963年発行のこの絵本は、出会った頃4歳だった私の心をがっちりと捉えました。
何って…
森を散策しているぐりとぐらの、未知との遭遇を予感させるかわいらしい後ろ姿。
赤いラインの入った素敵なホーローのボウル、真っ白でシンプルなエプロン、ぐりとぐらの顔と同じくらいのサイズのバターの箱、緑色の大きな大きなリュックなど、ぐりとぐらが話し合いながら準備していく道具ひとつひとつの存在感。
カステラの美味しそうな匂いに吸い寄せられるように集まってきた、動物たちの絶妙な描写。
極めつけは、見開きで「まあ! きいろい かすてらが、ふんわりと かおを だしました。」と魅力的な表現が添えられた、直にバターの香りが感じられるような美しいカステラの絵。
色んな動物が、カステラを分け合う優しい世界。
しかし、4歳のわたしは大変ひねくれておりました。
そもそも…大きすぎて持ち帰れないレベルの卵と対峙し、現場にボウルを持って行って流し込んだとして…
持ち上げられないくらいの大きさの卵なのに、どうやってボウルに流し込めたの?
とか。
カステラのレシピ、これで本当に合っているの?
とか。
森の動物たちの中には、カステラを食べられない種類の動物もいるでしょう?飲み込めるの?
ライオンはカステラより、ほかの動物を食べたかったりしないの?
とか。
ぐりとぐらは、どちらも男の子なの?女の子なの?兄弟姉妹なの?同居人なの?
どっちが、ぐりなの?どっちが、ぐら?
とか。
卵のカラを使った自動車、エンジンはどこについているの?どうやって動くの?
どうしてこんなたくさんの荷物を入れても、カラは割れないの?
などなど。
いちいち細かいことも気になるので、どうしても何度も読んでしまう。
きっとこれはわたしだけではなくて、
子どもって意外と現実を見ているものなのだということ、
それでも夢を見たいのだということ。
何百回何千回と『ぐり と ぐら』を手に取ったのは
絵本から香りが漂ってきそうなくらい、焼きあがった瞬間の美味しそうな色のカステラを眺めたいから。
「その おいしかったこと!」という言葉から、味を想像したいから。
美味しそうに食べる森の仲間たちに、再会したいから。
一緒に参加している気分を味わいたいから。
違和感があるからこそ手に取りたいのかもしれない。
読み手に、ジェンダーや動物の種類、年齢を超えた本当の自由があると感じさせてくれる、作者たちの作ってくれた優しい世界に想像とともに浸りたいのかもしれない。
なにより、ひとつひとつの言葉が、場面場面を丁寧に語りかけてくるのがたまらないのかもしれない。
「ぼくらの なまえは ぐりと ぐら
このよで いちばん すきなのは
おりょうりすること たべること
ぐり ぐら ぐり ぐら」
この部分は歌にもなっています。このリズム感、思わず歌いたくなります。
お読みになったことのないかたがいらっしゃったら、ぜひご一読を。
お読みになったことがあるかたも改めて、この不朽の名作を味わっていただきたいです。
そして、2024年に亡くなられた中川李枝子さんと、2022年にさきに旅立たれた妹の大村(山脇)百合子さんに、謹んで哀悼の意を表します。
素敵な絵本をありがとう、と心から感謝申し上げます。
参考:
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