都市養蜂の話

少し前のことになりますが、水道橋のホテルで開かれたミツバチに関するイベントに参加してきました。2年ほど前から養蜂に興味があり、アメリカやイギリスの養蜂家の動画をあれこれ見ていたのですが、養蜂家のお話を直接聞くことができると聞いて、出席を決めました。

イベントの冒頭、総支配人からホテルの屋上でミツバチを飼っていると聞かされました。パリのオペラ座(ガルニエ宮)の屋上では長いこと養蜂をやっており、採れた蜂蜜を販売しているということは聞いていましたし、銀座や京都でも同じことをしているのは知っていましたが、ビルが密集している水道橋で養蜂とは驚きました。

きっと「なぜホテルで養蜂を?」とあちこちで聞かれるのでしょう。詳しい説明をしてくださいました。
このホテルの敷地はあまり広くないのですが、庭には木が沢山植わっており、木々から落ちる枯葉の量が相当なものになるため、廃棄にかかる手間や費用もばかにならなかったそうです。数年前に着任した総支配人は、この枯葉を有効活用できないかと考え、米糠などと混ぜて腐葉土を作ることにしました。腐葉土ができたら今度はそれを肥料として使おうと考え、15階建てのホテルの屋上で菜園を始めたのだそうです。そして、今では自家製腐葉土を使った菜園で採れた新鮮な野菜やハーブをホテル内のレストランで提供するまでになりました。

ただ、おいしい野菜を実らせるには受粉が必要です。最初は総支配人さん自らその仕事を担っていらしたそうなのですが、栽培する野菜の数が増えるにつれて体力的にも時間的にもむずかしくなり、そこで思いついたのがミツバチの助けを借りることでした。

ミツバチ導入に当たって助けを求めたのが、都市養蜂家さんです。自然の多い田舎ではなく、都会で養蜂を行い、会社を作って都市養蜂を推進している方です。その都市養蜂家さんに昨年の2月から西洋ミツバチ飼育のノウハウを教えてもらい、巣箱を屋上に置き、数万匹のミツバチに受粉を担ってもらっているおかげで、総支配人さんもかなり楽になったそうです。

勤勉なミツバチは、屋上菜園の受粉を行うだけでなく、近くにある皇居や小石川後楽園、上野公園まで飛んで行って、せっせと蜜や花粉を集め、巣箱に持ち帰って巣を大きくし、子育てをしています。そして人間はミツバチが集めた蜜を分けてもらって、ホテルの商品として売っているのです。枯葉の処理ができ、野菜が収穫でき、受粉の手間も減り、おまけに蜂蜜まで販売できる。まさに一石四鳥!すばらしいアイデアですね。

この話を聞いたとき私が最初に思ったのは、「ミツバチの巣箱は、自然に囲まれた田舎に置いたほうが良いのでは?」ということでした。田舎のほうが空気も良いし、草花も多いし、人口密度の高いところで人を刺したりすると問題になると考えたからです。しかし、実のところ、田舎は耕作地が多く、農薬を広範囲で使用するため、ミツバチには生きにくい環境であることが多いそうです。反対に、大都市では耕作地がほとんどないため、大量の農薬を撒くことも少なく、また、公園や個人の庭では多種多様な植物が育てられていて、四季を通じて何らかの蜜源があるため、ミツバチが飢えることがなく住みやすいのだそうです。これは目からウロコでした。

今回私たち参加者は、このホテルで収穫した蜂蜜のテイスティングをさせてもらったのですが、多種多様な花から集められた蜂蜜は、普段食べている蜂蜜よりずっと香りが高く、味も複雑でおいしいものでした。
さらに副産物である蜜蝋のディッピングキャンドル作成も体験しましたが、これもとても楽しいものでした。蜜蝋ろうそくは、煤や黒煙が出ず、環境に優しいそうです。また、添加物の入っていない蜜蝋は、人気のお菓子カヌレのコーティングにも使われているそうですから、食べても害がありません。ですから、間違って小さなお子さんが口に入れても安全だそうです。

蜂蜜も蜜蝋も100%ミツバチが作った自然の産物です。ミツバチの中でも働きバチの寿命はたった30~40日ほど。その間に何万という花を渡り歩いて花蜜や花粉を集め、蜜蝋で巣を作り、花蜜の水分を蒸発させてはちみつを作る期間は2~3週間程度。一生で集める蜜の量は、1匹の働き蜂当たりティースプーン1杯にも満たないそうです。
一口で食べてしまえる量ですが、ミツバチが一生をかけて集めたものですから、いただくときにはミツバチの働きに感謝しなければ、と思った次第です。

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