
『指輪物語』(1955)というファンタジーの古典的名作があります。根強い人気で実写での映画化もされました(日本でのタイトルは『ロード・オブ・ザ・リング』(2002~2003))「中つ国」という架空の世界を舞台に、悪の帝王を相手にエルフ、ドワーフ、人間など複数の種族が協力して戦う壮大な長編です。この作者のJ.R.R.トールキンの本業は言語学者だったということはご存知でしょうか。ここではトールキンの言葉に対するこだわりを紹介します。
トールキンは幼少期から音楽や絵を好んでいましたが、次第に言葉の構造や音に興味を持つようになりました。そして、言語学専攻でオックスフォード大学に入学しました。そのまま大学で研鑽を積み、最終的には教授となって生涯を学問に費やしました。そんな彼がどうやって『指輪物語』を創り出したのでしょうか。
トールキンは学生時代、様々な言語について学んでいく傍ら、自分の新しい言語を作り出したいと考えて構想を練り始めました。そして数十年も時間をかけてじっくりと、その言語体系(文法、音韻)のみでなく、その言語を使う世界まで細かく設定していったのです。各種族の歴史、創造まで遡る神話など、その資料は膨大な量になっていきました。そこから後に名作が生まれることになったのです。
『指輪物語』が世に出ることになったきっかけは、子供向けの物語、『ホビットの冒険』の成功でした。自分が造り上げた世界の人物を登場させた冒険話が児童文学として出版され、好評を博しました。続編を打診された時、彼は、単なる短い続きの物語でなく、自分が今まで構築してきた神話世界の壮大な物語を世に出してみたいと考えたのでした。紆余曲折の末、彼のこだわりを盛り込んだ長編3部作の物語が出版されることになったのです。
物語の中に出てくる言語は、エルフ語、ドワーフ語、悪の親玉の冥王の使う語など、それぞれ綿密に設定されていました。例えばエルフ語は、音楽のように聞こえるというイメージの元に、r、l、nなどの響きの良い音が多い言語に作りあげました。ドワーフ語は、kh、b、dなどの破裂音を含み、少し硬い印象を与える音が多い言語。冥王の言葉はzg、rz、drbなど有声子音の連続やshなどの摩擦音が多く、不機嫌に唸っているようにも聞こえる響きとなっていました。もちろんそれぞれの言語にあわせて文字も考え、それを使って書かれた詩を作り出したりもしていました。その言語で作った歌をトールキン自身が録音した音源も残っています。
推敲を重ねて完成させた世界で展開される物語は、登場人物の性格や行動を生き生きとあらわし、読者たちを魅了したのです。トールキンの言語に対する飽くなき探求心と真摯さが、このように魅力的な世界をつくりあげたとも言えます。言語は単独で存在するのではなく、まさに言語と種族、文化は切り離せないということを実感させられるのでした。
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