小さな島のPrettyなものたち~カナダ・プリンスエドワード島

みなさんはカナダという国を耳にしたとき、どんなイメージが思い浮かぶでしょうか? 壮大なカナディアンロッキー、グリズリーベアやヘラジカなどの大きな野生動物、神秘的なオーロラなど、雄大な自然の風景を思い浮かべる人も多いと思います。
はい、私もそうでした。
でもね、カナダにはそんなイメージとは一味違った小さな島があるのです。

プリンスエドワード島はカナダ東部のセントローレンス湾に位置し、面積は日本の愛媛県と同じくらい、カナダでも一番小さな州です。
「赤毛のアン」の舞台になった島であり、世界で一番美しい島とも言われます。
赤土でできたこの島は、夏になると木々の緑、空や海の青が、太陽にキラキラ照らされ、それはそれは美しいコントラストを見せてくれます。

島に大きな山はなく、スキーだってクロスカントリーがメイン。「島で一番大きな野生動物は何?」と聞くと、みんなちょっと笑いながら「キツネじゃない?」「いや、鹿くらいいるんじゃない?」なんて言い合ってる。冬が長いから、4月に雪が溶け出すと「もう泳げるかな」なんて浮かれはじめちゃう(いやいや、海まだ凍ってるから!)。
主な産業は、漁業(ロブスター最高)と農業(じゃがいもと酪農、牛いっぱい)と観光業(しかも夏だけ、冬は雪の中)。
そう、プリンスエドワード島はいわゆるカナダの「雄大な自然!」とはちょっと違う、牧歌的な島なのです。

“So pretty, eh?!”

Islanders(島の人達)は自然の風景や街並みなどの景色を ”Pretty” という言葉を使って表現します。
1990年代前半、まだ英語も上手く話せなかった私は、”Pretty” という言葉はいわゆる「かわいい」という意味で使うものだと思っていたので、初めて耳にしたときは「ん?」と少し違和感がありました。
でもIslandersは夕焼けの空を見て、丘陵に牧草が丸められている風景を見て、遠くに輝く海を見て、“Look, it’s so pretty, eh?!” と頻繁に口にするのです。(「すごくきれいだね!」”eh”はカナダの口語で「~だね!」とか「~でしょ?」という感じで同意を求めるときによく使います。)
大きな都市もエンターテイメント施設も少なく、1年の半分近くを雪で覆われるこの島では、自然の風景や季節の移り変わりを楽しむIslandersのPrettyなお気に入りがたくさんあるのです。

みんな大好き灯台巡り

Point Prim Lighthouse

雪の季節が長いため、春を感じられる頃になると、Islandersはみんなこぞってソワソワし始めます。
今年は庭に何の花を植えようか?とか、週末には西の灯台までドライブしてみようか、とか。
そう、Islandersは灯台巡りが大好き。島には40近い灯台があり、ほとんどが木製の小さなもの。中には19世紀に作られたものも残っているらしいのです。海岸の高台や静かな入り江にも、ポツンと突然灯台があったりします。どれもとても小さくて素朴だけど、赤土の海岸線に青い海とマッチしてかわいらしいのです。多くのIslandersにはお気に入りの灯台があるらしく、灯台の話をすると「あっちの灯台もPrettyなのよ」とか「My favoriteはね…」なんて色々教えてくれます。

 

ルピナス

Granville周辺のルピナス

初夏、雪もすっかり消え去って、一番きらめく季節には、島中あちこちにルピナスの花が咲き始めます。
ルピナスは藤の花を逆さまにしたような美しい花ですが、生命力が非常に強いと言われ、一度その場所で花を咲かせると、次の年も生えてくるしどんどん広がっていくらしいです。
夏の日差しに照らされて、辺りを覆いつくすように群生する色とりどりのルピナスは、のんびりとした島の風景に活き活きとした夏の彩りを加え、美しい風景を作り出します。
Islandersはルピナスを「あいつら雑草だから」なんて言いますが、これも愛情表現でしょうか。ドライブ中にきれいだね、prettyだね、という言葉を何度も口にします。(帰国する際は大量のルピナスの種を友人からもらい、「気を付けてね、その辺にまくと3年後には日本中に咲くから」と言われました。もちろん、種なので持って帰って来ることはできなかったのですが。。)

クリスマスイルミネーション

夏が終わり紅葉が落ちる頃、11月の始め位からでしょうか、ちらほらと雪が降り始め、そしてすっかり雪景色になる11月終わりには、家々にクリスマスのデコレーションが始まります。
色とりどりの電球で飾る家、青い電球一色の家、庭の木にも、農場へと続くアプローチにも、雪景色の中でキラキラと家々の輪郭が浮かびます。それは通常イメージするような大きな街のきらびやかなイルミネーションとは違って、静かで優しく、とても美しい冬の風景です。
私がお世話になっていたホストファミリーは、住宅街で車をゆっくりと走らせて、「この家のイルミネーション、素敵だね」「この家は小さな子供がいるのかな」なんて言いながら、夜のドライブを楽しんでいました。私は何故かこのクリスマスのイルミネーションを思い出すと、日本から遠く離れた、あの雪に覆われた小さな島にも、人々の営みやささやかな楽しみがあり、喜びがある、そんな当たり前のことをぼんやりと考えたりします。

夕日に浮かび上がる牛たちのシルエット、赤い一本道の先に見える青い海、林の中を流れる小川の澄み切った色など、Islandersが愛するPrettyなものを挙げるとキリがありません。
もしこれを読んだ方が少しでもプリンスエドワード島に興味を持ったら、次回の海外旅行の候補地に加えてみてください。荘厳でも雄大でもありませんが、なだらかな丘と海に囲まれた、何ということもない田舎の風景が優しく迎えてくれることと思います。

 

参考

https://www.tourismpei.com/

https://issuu.com/tourismpei/docs/2020_islandness_book_final_eng

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