ダスビッテで乗り切る5日間

海外旅行をするときは、できるだけその国の言葉でコミュニケーションを取りたいという理想があります。
基本的に自分が知っている言葉が使われている国(フランス語圏)にしか行ったことがない私は、一度だけその枠をはみ出してみたことがあります。

 

社会人になってからフランスに留学していたときのこと。
学生時代の友人にメールをすると、「そういえば〇〇が今ドイツにいるって聞いたよ。」と、クラスメイトの友人の連絡先を教えてくれました。
早速その友人に連絡をしてみると、勤務先の語学研修制度を利用してドイツに1年間滞在中で、2週間後には日本に帰国するというタイミング。
帰国前に遊びにおいでよとの誘いに乗り、急遽ドイツ旅行が決まりました。

初日:友人の住むフランクフルトで1日案内してもらう
2日目:ひとりでベルリンへ移動、5日間滞在

年末のクリスマス休暇前という時期に、急いでTGV(フランスの高速鉄道)の予約に駅へ向かいます。
滞在先は友人が予約まで済ませてくれたし、これでひと安心。
と思ったところで気が付きました。
ワタシ、ドイツ語全然わからない・・・。

貧乏学生故、フランス国内でさえほとんど旅行をしたことがありません。
ましてや、陸続きとはいえ国外へ行くなんて全くの想定外です。
言葉が通じない国って、どうやって過ごすのだろう。
スマートフォンなどなく、かろうじて自宅のPCで情報収集をしていた当時は、いったん家を出たら最後です。
とはいえ、ドイツの人は英語ができるはず(問題は私の英語力)。
ひとまず、礼儀としてあいさつとありがとうだけは現地の言葉で覚えていこう。
覚悟を決めて、12月24日の早朝、列車に乗り込みました。

フランクフルトで合流した友人は、別れ際に、基本的なあいさつと「Das bitte ダスビッテ」と書いたメモを渡してくれました。
「ダスビッテ?」
「これください、っていう意味だよ。とりあえず指をさしてこれを言えば食べ物とか買えるから。」
「(魔法の言葉・・・!)ありがとう!」

翌日から5日間は、いよいよ一人旅です。
あいさつとダスビッテだけでどうにか乗り切らなければなりません。
12月25日、26日は祝日でお店がお休みのため、食料の調達は至難の業ですが、ここで「ダスビッテ」が大活躍。
クリスマスマーケットや、道端の屋台のベルリン名物、カリーブルスト(カレーソーセージ)で繋ぎます。

パン屋さんでは、あっちのおいしそうなのが気になるけど、手前のこれをダスビッテ。
「あれください」バージョンも聞いておけばよかったかもしれません。

ダスビッテを駆使して過ごした5日間、言葉がわからない不安もありましたが、カタコトのドイツ語の表現だけでなんとかしようとする外国人に対する、現地の方々の優しさが身に沁みました。

ドイツからパリへ戻ると、目に入る標識も聞こえてくる言葉も、それまで外国語だと思っていたフランス語が、不思議と自国語のように思えます。
「言葉がわかるってスバラシイ」ということをあらためて実感した瞬間でした。

 

自分が知らない言葉が使われている国へ行ったのは、後にも先にもこのときだけですが、おそらくそれ以来、「言葉がわかるってスバラシイ」が自分の中でベースとなり、何かに日本語訳がついているだけで、ちょっとおかしな日本語でも、「日本語を書いておいてくれてありがとう」という気持ちが沸いてくるようになりました。
イデアで翻訳サービスに携わるようになった現在も、私たちが世に出す翻訳が、誰かに「自国語があってよかった」と思ってもらえていたらいいなと思いながら作業をしています。

 

ちなみに、フランス語のいちばん簡単な「これください」は「(指をさして)Je prends ça ジュ プロン サ」です。
誰かの弾丸フランス旅行のお役に立つとうれしいです。

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