香港台風事情

管理人 2022年9月9日

今年もいよいよ台風シーズン到来である。地球温暖化の影響からか、近年は西日本のみならず、都心を含む関東地方にも直撃し、日本社会の大きな問題となっている。当然のことながら、台風の影響は日本だけに限るものではなく、東南アジア諸国、米国やメキシコ等の太平洋沿岸地域などに上陸し、甚大な被害を与えている。今回のブログでは、私が前職で5年間（2009～2014年）駐在していた香港の台風事情を紹介したい。

香港特別行政区は広さが1,100㎡余りあるが、大きく分けて、空港のあるランタオ島（大嶼島、Lantau Island）、中国広東省と運河を隔てて陸続きになっている新界地区、その南の九龍半島先端に位置する九龍地区、そして香港島の4つからなり、新界と九龍の地区間には標高495ｍの獅子山（Lion Rock、遠くから見るとライオンの頭に見える）がある^（注1）。大陸につながっている地域（新界と九龍）は約790㎡なので、獅子山は例えていうなら、東京23区（約639㎢）の真ん中に高尾山（標高599m）があるようなイメージかもしれない。

亜熱帯にある香港では大体6月～10月に毎年平均すると台風が5本ほど接近する。香港天文台（日本の気象庁にあたる）が台風の大きさによって、Tropical Cyclone Warning Signal（熱帶氣旋警告信號）１・３・８・９・１０と分類しており、シグナル８以上は香港直撃が予想され会社や学校は休みとなる。余談になるが、香港天文台は尖沙咀という香港で一、二を争う繁華街の中にあり、自動車の排気ガス事情が良くない為、あまり適さないのではないかという所に立地している。

2011年から2020年の10年間で51個の台風が香港に近づき、シグナル8が15回、シグナル9が1回、そしてシグナル10が３回発令された。台風直撃は計19回だから、6割以上の台風は直撃しないのだが、海に面しているので台風の激しさをほぼ毎回直に感じることになる。また、亜熱帯地域なのでスコールのような雷雨もほぼ毎日のようにあり、状況がひどくなるとthunderstorm warning（雷暴）が、アンバー、レッド、ブラックの3段階で発令され、ブラックが出ると、シグナル８同様に会社は休みになる。どちらも労働者の安全確保の為なのだが、日本では台風時での出退社は各企業の判断となっているのに対して、香港では香港天文台の台風警報・雷大雨警報による線引きとなっていて分かりやすい。

警報が出ると、公共機関の間引き運転が開始され、バスの運行も取りやめになる。庶民の足であるタクシー（物価に対してタクシー運賃は異様に安い）はシグナル8下でまず走っていない。風による飛翔物がぶつかっても、保険対象外となってしまうからだ。香港を訪れたことがある方は良くお分かりであろうが、通り一杯に張り出している吊り看板もそうだが、冷房室外機もかなりいい加減に取り付けてあり怖い。風でモノが飛んでくる可能性は極めて高い。

2012年7月のVICENTE（日本の呼称は台風8号）は、香港では1999年以来13年ぶりの大型台風だったのだが、当時、私はブランド衣類を扱う会社で勤務していて、新界地区の屯門という倉庫街で、日本から来ていた出張者と共に呑気に洋服の検品作業をしていた。シグナル8が出たのを確認したすぐ後に倉庫を出て帰宅しようとしたもののタクシーが中々つかまらない。香港ではタクシーに種類があり、九龍地区はえんじ色、新界地区は緑色のタクシーで、それぞれ営業地区が定められている^（注2）。私は九龍地区に自宅があったのだが、緑色タクシーは基本的には新界地区でしか営業できないため、それでは帰宅できなかった。運よく見つかったえんじ色タクシーに乗り込み、出張者をホテルに送り届けた後、タクシー運転手が最後の客を拾いたいというので、一番近い九龍地区の駅までは運転してくれたのだが、シグナルは8から10へと変更されており、海沿いの道では少々怖くなるほど見る見る風雨が強くなったのであった。降車の際に少々多めにタクシー代を払ったのは言うまでもない。

その日は、ほうほうの体で帰宅し、夜半にずいぶん風が強いなと感じた位でぐっすり寝たのだが、翌朝、ベッドサイドは吹き込んだ雨で水浸し。風が強すぎると窓の隙間から雨が入ってきてしまう。街路樹は何本も薙ぎ倒され、窓ガラスの割れた店舗もあり、改めて亜熱帯の天気の恐ろしさと最大級のシグナル10の威力を感じさせられたのだった。

日本でも台風の被害が毎年ひどくなっているように感じるが、香港のような亜熱帯地域を見習って行動するべき日が来るかもと思うとちょっと怖くなってきた… 香港に台風シーズンに行くときはどうかお気をつけて！

（注1）香港巴士鐵路旅遊協會（香港の地域） http://www5f.biglobe.ne.jp/~hongkong/area.html

（注2）香港のタクシーに乗ってみよう！ https://www.hongkongnavi.com/special/5043761