夏の夜のパンケーキ

今回は暑い夏の夜、特に週の仕事を終え、ホッとしたい金曜日の夜に食べたくなる思い出のレシピを紹介します。

それはフィンランドのパンケーキです。

日本では、季節を問わず朝やブランチに食べるパンケーキですが、フィンランドでは特に夏の夜によく食べられます。

夜とは言っても、フィンランド人が「夜のない夜(Yötön yö)」と呼ぶ夏の夜は、昼間のように明るいです。この白夜の時期は、多くの人と言うよりたぶん殆どの人が「寝る間も惜しんで」という言葉がぴったりなように、屋外で友人と賑やかに過ごします。フィンランド人の友人は決まって、「暗くて寒い冬の鬱憤をここで晴らすんだ」と言います。

私も夏の間は、友人と集まって出かけたり、ヘルシンキのヒエタランタHietarantaビーチで遅くまでビーチボールをして遊んだり、という感じで過ごした思い出があります。暗くならない夜というのは、人々のテンションを高めるのでしょう。

 

しかし、やはりこの高いテンションはどこかで落ち着かせる必要があります。

フィンランドには約188000個の湖があると言われています。それらは大小様々ですが、とにかくどこに行っても湖があります。そして、その湖の側には、小さな夏小屋(kesämökki)がちらほらと建っている、というのが典型的な風景です。多くのフィランド人が週末や夏休みの間、そこでゆっくりとした時間を過ごします。

日中は、静かな森にはいりブルーベリーやコケモモを黙々と摘んだり(誰でも自由に摘むことができます。権利として認められているのです!)、湖で泳いだり。夕方になればサウナに入り、真っ赤になった身体を湖で鎮め、再びサウナ、再び湖の繰り返しです。このような過ごし方が、ずっと変わらず行われてきたのでしょう。

私も週末には、フィンランドの父母と慕う老夫婦のコテージにいき、森を散策したり、ベリー摘みをしたり、本を読んだり、時間を気にせずゆっくりと過ごすことがありました。夕方になれば、サウナと湖に入り、その後庭で焚火を囲みながら、ソーセージやパンケーキを焼いて食べるのです。

昼間と変わらないくらい明るい空ですが、やはり北欧の夜です。サウナのおかげで体の芯が温まっているとはいえ、ひんやりします。長袖のジャケットを着こみ、次々と焼かれるパンケーキが自分のお皿に載せられるのをじっと待ちます。これが、とても落ち着く静かな夏の夜の過ごし方でした。

フィンランドのパンケーキは、日本ではNHKの『グレーテルのかまど』という番組でも「ムーミンママのパンケーキ」として紹介されたことがあります。

ムーミン一行がピクニックや冒険に出かける時に、ムーミンママが持たせてくれるバスケットには必ずといっていいほどパンケーキが入っていて、皆の空腹を満たします。洞穴探検に出かけたエピソードでは、ママが持たせてくれたパンケーキで、巨大な魚マメルク(架空の魚)を大奮闘の末に釣りあげます。そんな感じで食べられているパンケーキですが、特別な時はメインディッシュにもなります。村の皆が集まる夏の夜のパーティーでは、パンケーキの登場と場の盛り上がりはセットで描かれます。ムーミンママは大勢のお腹を満たすために、何とも豪快な方法でパンケーキを焼きます。「ムーミンママは、パンケーキを焼くために、金だらいに油をひきました。フライパンだけでは足りなかったからです。」(『たのしいムーミン一家』講談社、2014年。245ページ)

ムーミントロールの物語は、作者トーベ・ヤンソンがフィンランドの豊かな自然の中で過ごした子供時代の出来事や風景に色濃い影響を受けています。トーベもきっと、このパンケーキを食べたのでしょう。

フィンランドのパンケーキはエネルギーに溢れた夏の夜に、気持ちを落ち着かせ、地に足をつけさせてくれる食べ物なのです。

 

最後にこのパンケーキのレシピを記します。

ここまで読んでくださった方々の期待を裏切るようで申し訳ないのですが、このパンケーキは、日本で人気の“フワフワフカフカ”ではなく、ぼってりした厚手のクレープに近い食べ物です。Lettuレットゥ(複数形Letut)といいます。フィンランド語でパンケーキに該当するPannukakkuパンヌカック(Pannu=フライパン、kakku=ケーキ)は、オーブンの天板で焼いて、四角く切り分けてたべるもの。こちらも“フワフワフカフカ”というよりも“モッチリ”としています。この食感はフランスの伝統菓子ファーブルトンにとても似ています。そう考えると小麦粉、砂糖、卵、牛乳というシンプルな材料から、世界のあらゆる地域の人々が作り出した素朴なお菓子のバリエーションの多さに驚かされますね。

Lettuの作り方:

材料:牛乳600ml、卵3個、薄力粉1.5カップ、砂糖大さじ1、塩小さじ1
作り方:混ぜる、そして焼く。

このパンケーキを食べる理想的なシーンは、やはり野外です。山頂で調理する山ごはんも流行っているようなので、ぜひこのパンケーキにも挑戦してみてください。

煙が上がるほどに熱されたフライパンの上で、たっぷりのバターをジュワジュワさせながら溶かします。卵とたっぷりの牛乳と、少しの小麦粉が入ったクリーム色の生地を流し込むと、ジュッという音がしてカラメルのような香ばしい香りが漂います。しばらくすると、ふつふつと気泡ができてきて水分がぬけはじめたところで、思い切ってひっくり返します。少しの間裏を焼いたら、お皿に盛りつけて、熱々のうちに、ジャム、砂糖又は泡立てた生クリーム等の好みのトッピングを載せます。さあ、どうぞ召し上がれ。

最後まで記事をご覧いただき、ありがとうございます。

株式会社イデア・インスティテュートでは、世界各国語(80カ国語以上)の翻訳、編集を中心に
企画・デザイン、通訳等の業務を行っています。

翻訳のご依頼、お問わせはフォームよりお願いいたします。
お急ぎの場合は03-3446-8660までご連絡ください。