掃除機とブーツ

最近、新しい掃除機を買いました。
今まで使っていた掃除機は、吸い込みは悪くなかったのですが、重くて動かしづらくヘッドローラーが壊れかけていました。でも、まだ動くし買い替えるのも面倒だなと思ってなんとなく我慢して使っていました。今思えば、以前は毎回掃除を始める時に少し構えてしまうようなところがありました。

しかし、今年、思い切ってコードレスの掃除機に変えてみたら、掃除の感覚が今までとだいぶ変わったのです。
まずコードがないだけで部屋の中をスムーズに動けますし、軽くて取り出すのも楽になって、掃除へのハードルがぐんと下がりました。
今やっちゃおうかなと自然に行動できるようになったのです。

そのとき、自分は掃除が嫌いなんじゃなくて掃除しにくい状態にいたんだなあと、ふと思いました。

そして、もうひとつ。この感覚にとてもよく似た話を思い出しました。
それは、私が昔カナダのモントリオールにいた時に出会った先生の話です。
先生はフランスからカナダに移民してきた方で、フランスから持ってきた古いブーツをずっと履いていました。

モントリオールの冬はとても厳しくマイナス20度ぐらいになったりします。
雪が何ヶ月も解けずに残っていて、道には凍結防止用に大量の塩がまかれていました。モントリオールに住んでいる人は、スノーブーツという特別なブーツを履いていました。
スノーブーツというのは、厚底になっていて防水加工がしてあり、滑りにくいブーツです。普通のブーツより値段が高いです。
私も当時どうしようかと思ったのですが、思い切ってスノーブーツを買って履いていました。

ところが私が出会ったその先生は、「まだ履けるから」とか「スノーブーツは高い」と言ってずっと買い替えようとしなかったんです。
当然足も冷たくなり、ブーツはどんどん傷んできて、先生は徐々に外を歩くのがつらくなっていったそうです。
そして、日々の寒さや不便さでどんどん気持ちが落ちていき、ついには「この街に来たのは間違いだったかもしれない」とまで思うようになってしまいました。

それからしばらくして、周囲の人たちの勧めもあって、やっと先生はスノーブーツを買いました。

足が冷たくならないし、歩くのが楽しくなって、同じ雪景色が前よりもきれいに見えたそうです。「この街で生きていけるかもしれない」とやっと思え、「ブーツを変えただけで、世界が変わった。」と話してくれました。
なんかいい話だなと思ってずっとその話が心に残っていました。

自分が掃除機を変えたときに、世界が変わったとまでは思わなかったけど、先生と同じ感覚を味わった気がしました。どちらも、ちょっとした“不便さ”を取り除いただけで、行動も気持ちも変わったところが共通しています。

私たちのまわりには、いつの間にか目には見えない小さな障害みたいになっているものがたくさんあります。
道具が古かったり、やり方が合っていなかったり、「こうするものだ」と思い込んでいた習慣があるかもしれません。
それを少し見直して、整えるだけで、日々の心地よさや前向きな気持ちにつながることがあるのだなと、気づきました。

残暑が続きますが、工夫できるところは工夫して少しでも快適にこの暑さを乗り切りましょう!

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