
子供の頃に買ってもらった絵本の中に、お気に入りが2冊ありました。岩波書店発行「岩波の子どもの本」シリーズの『ちいさいおうち』と『ちびくろ・さんぼ』です。
いつの間にかどこかに行ってしまったのですが、何年か前に書店でみつけ、あまりの懐かしさについ買い直してしまいました。
『ちいさいおうち』
『ちいさいおうち』(原題 “The Little House”)はアメリカの作家バージニア・リー・バートンの1942年の作です。
自然溢れる田舎の丘に建てられ、季節の移り変わりやそこに住む子供たちの成長を見守りながら静かに過ごしていたピンクの「ちいさいおうち」。しかし、時が経ってその田舎にも都市開発の波が押し寄せ、急に変貌した「ちいさいおうち」の周辺は、地下鉄が走り、高層ビルが林立し、車が行き交ううるさい都市になってしまいます。そして「ちいさいおうち」は色あせた姿で取り残されてしまうのです。
田舎でお日様の光を浴び、夜は月や星を眺めて過ごしていた頃を思い出しながら、悲しい毎日を送っていた「ちいさいおうち」ですが、あるとき「ちいさいおうち」を最初に建てた夫婦の孫の孫のそのまた孫が前を通りかかり、「ちいさいおうち」をみつけます。そして、「ちいさいおうち」を台車に載せて田舎に引っ越しさせてくれるのです。
田舎で新たな居場所をみつけた「ちいさいおうち」は、昔と同じように四季の移り変わりを見ながら静かに毎日を過ごすことができるようになりました、という「めでたし、めでたし」のお話です。
子供が読むと、「ああ、おうち、幸せそう。田舎に帰れて良かったね。」と思うだけかもしれませんが、都市開発や自然破壊といった普遍的なテーマを正面から批判したり騒ぎ立てたりするのではなく、子供にも静かに理解させてくれる、優れた絵本だと思います。
1952年にはウォルト・ディズニーによりアニメ映画にもなっています。インターネットで検索すると見ることができますので、お暇なときにいかがでしょう?
『ちびくろ・さんぼ』
『ちびくろ・さんぼ』(原題:“Little Black Sambo”)は、南インドのジャングルの中でおとうさんの「じゃんぼ」、おかあさんの「まんぼ」と一緒に住む小さな男の子の物語。スコットランドの童話作家、ヘレン・バンナーマンが自分の子供のために書いた本が1899年にイギリスで出版され、日本では1953年に岩波書店から出版されました。
(“Little Black Sambo”を「ちびくろさんぼ」と訳したのは児童文学作家の石井桃子さんです。さすがですね!)
ある日、「ちびくろ・さんぼ」がおかあさんの作ってくれた赤い上着と青いズボン、おとうさんが買ってくれた緑色の傘、底と内側が真っ赤な紫色の靴を身に着けてジャングルに行ったところ、虎と遭遇し、命を取らない代わりに上着、ズボン、傘、靴を次々と取られてしまいます。
しかし、その虎たちがさんぼから取り上げた持ち物を身に着けて「おれさまが一番立派だ!」と自慢を始め、そのうち喧嘩になり、ヤシの木の周りをぐるぐる回り出します。そして、「ちびくろさんぼ」から取り上げた物をすべて放棄してしまい、おかげで上着もズボンも傘も靴もちゃんとさんぼに戻ってくるのです。おまけに、ぐるぐる回っていた虎たちは回りすぎてとうとうバターになってしまいます。そのバターをおとうさんが持ち帰り、おかあさんがパンケーキを焼いてくれて、家族3人でパンケーキをたくさんたくさん食べた、という、こちらも「めでたし、めでたし」のお話です。
作者のヘレン・バンナーマンがインドに住んでいたこともあり、原作ではバターではなく、ギー(水牛やヤギの乳から作ったバターから水分やたんぱく質を取り除いた油)だったようです。そして、元々の絵では、主人公のさんぼは黒人ではなかったのを、アメリカの出版社がフランク・ドビアスという人に絵を描かせたところ、真っ黒なかわいい男の子の絵になってしまい、アフリカ系の黒人のイメージが定着してしまったようです。虎はアフリカには生息していないのに、誰もおかしいと思わなかったようです。
わたしは小さい頃、さんぼのことを「かわいいな~、お友達になりたいな~」、と思っていましたし、虎がバターになると信じ込んで、どうやったら虎のバターができるところを見られるの?動物園の虎もバターになるのだろうか?と真剣に考えながら読んでいた記憶があります。
ところが、1980年代にアフリカ系の男の子の描写が人種差別的だという議論が世界で起こり、あっと言う間に出版停止が決まってしまったのでした。紆余曲折あってその後再販されることになり、おかげでまたこの本がわたしの元にやってきた、というわけです。
Wikipediaを読むと、かわいらしい男の子の冒険物語が裏では複雑な経緯をたどっていたことがよくわかりますが、そんなこととは関係なく、ただ普通に楽しめるかわいらしいお話です。
この2冊、今の子供たちの心にはどう刺さるのでしょう?
今度ぜひ親戚の子供にも買ってあげて、感想を聞いてみたいと思います。
最後まで記事をご覧いただき、ありがとうございます。
株式会社イデア・インスティテュートでは、世界各国語(80カ国語以上)の翻訳、編集を中心に
企画・デザイン、通訳等の業務を行っています。
翻訳のご依頼、お問わせはフォームよりお願いいたします。
お急ぎの場合は03-3446-8660までご連絡ください。