翻訳は言葉の料理

ある日、帰り道にラジオを聴きながら歩いていると、自動再生でこれまで聞いたことのなかった番組が耳に入ってきました。「聞くだけでごはんができるラジオ」という番組でした。
この番組では、毎回ひとつの料理をテーマに、自炊料理家の山口祐加さんが実際に作りながら調理音と解説で完成までリスナーを導いてくれます。料理初心者向けの内容で、ラジオを聞きながら同じタイミングで調理を進めると、番組が終わる頃には自然と一品が完成するように構成されています。

私が聞いた回では、「かちゅー湯」というかつお節のスープを作っていました。
作り方はとてもシンプルで、ケトルでお湯を沸かし、味噌と鰹節を入れたお椀にお湯を注いで混ぜるだけで完成です。
一見料理とは思えないほど簡単ですが、山口さんはこれも立派な料理だと語っていました。

聞き進めていくと、彼女は番組の中で「料理は『食べられないものを食べられるようにすること』」と話していて、この言葉が強く印象に残りました。そして私は、料理は翻訳に少し似ていると感じました。
料理が食べられないものを食べられるようにすることであれば、翻訳は読めないものを読めるようにすること。
そのままでは理解できないものを、伝わる形に変えるという点で、共通しているように思いました。

思い返せば、私が入社したばかりの頃、業務説明で上司からテクニカルライティングを「食材」に例えて説明してもらったことがありました。
テクニカルライティングとは取扱説明書など技術系文書のテキストを作成することです。原文が読みやすく、構成が整っていて、誤解が生じにくいものであれば、翻訳された文章も自然でわかりやすく、美しい仕上がりになりやすくなります。良い食材があれば、塩と胡椒を加えるだけでも美味しい料理が出来上がるのと同じです。一方で、原文がわかりづらい場合(主語が抜けていたり、一文が長すぎたり、日本語特有の言い回しがある等)、たとえ経験豊富な翻訳者でも、内容を正しく解釈し、適切な表現に置き換えるまでに時間がかかります。結果として、良い原文から翻訳したものと同じレベルに仕上げるのは難しくなってしまいます。
このように原文を食材に例えて説明することで、翻訳になじみのないお客様にもテクニカルライティングや原文の重要性を理解していただきやすくなる、と教わりました。

翻訳しやすい明快な原文=「良い食材」を用意するのがテクニカルライティングですが、お客様に原文(=食材)をご用意いただいた際には、その食材をいかに美味しく調理するかにもこだわりをもって取り組んでいます。

丹精込めて作成された原稿を他言語でも「美味しく」伝えるため、厳選した翻訳者やチェッカーの採用はもちろん、翻訳対象のジャンルに合った翻訳者やチェッカーの選定、培ったノウハウによる案件の進行管理など、細かな部分まで丁寧に確認することにも気を配っております。
良い原文(=食材)に、翻訳者やチェッカー、コーディネーターの経験や技術(=調理技術)を加えることで、皆様が気持ちよく読める、魅力的な訳文をお届けできるよう日々努力しています。

食事は日々の生活に欠かせないものですが、読んで正確に理解できる文もとても大切です。
ニュースや娯楽、製品の使用方法や注意書きなどの文章を読んで理解し、きちんとした情報を取得することは、様々な面で人生を豊かにします。

今日もお客様からいただいたご要望や大切な原稿をもとに、テクニカルライター、翻訳者、チェッカー、コーディネーターが力を合わせ、最高の訳文を提供することを目指し、お客様に満足していただける翻訳を作り上げたいと思います。

最後まで記事をご覧いただき、ありがとうございます。

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