「ピー、ピー、ピー」
家のどこかから音がして、電気ポットのお湯が沸いた音かな、コーヒーでも淹れるかとキッチンへ行くと、電気ポットには「あと5分」の表示。
あれおかしいな、ご飯が炊けた音か?と振り返って炊飯器を見ると、まだ「炊飯中」のランプがついたまま。
はて。
じゃあ今の音はなんだろう、と少し家の中を見回してみると再び、
「ピー、ピー、ピー」
と同じ音。
そこでようやくわかった。
これは加湿器の水がなくなった音だ。
案の定加湿器を見ると、赤い吸水ランプがついていた。無事解決。
別の日。
「ピー、ピー、ピー」
あ、これは加湿器の水がなくなった音だな。
そう確信して加湿器を見ると、運転中の緑色のランプがついている。おや?
洗濯が終わった音にも似ているけれど、今日は洗濯機は回していないし。
おかしいなあ、とキッチンへ行ってみると、足元に冷気を感じてようやく気がついた。
冷蔵庫のドアがちゃんと閉められていなくて、その警告音が鳴っていたのだった。
取扱説明書の丁寧な記述を思い出す。
電気ポットを例に挙げると
「ピー」と一回長く鳴ったら電源が切れた音。
「ピピッ」と鳴った時は再沸騰を始めるお知らせ。
そしてお湯が沸いた時は「ピー、ピー、ピー」と3回鳴る。
などなど。
昔のポットはどんな場合でも無音だった。今は音を出してくれる。とても親切だ。
しかし今では親切な家電が増えすぎて、もはやどの家電から何の用で呼ばれているのかわからなくなってしまった。
別の日。
「タンクのお水が、なくなりました」
奮発して購入した、加湿機能付き空気清浄機。その空気清浄機が、私を呼んだ。
感動。
ありがとう。しゃべってくれて。
ありがとう。何が必要か言ってくれて。
「フィルターを自動でお掃除します」
「今日の天気は曇り」
「PM2.5の濃度が高くなっています」
などなど。よく喋る子だ。愛着が湧いてくる。朝10時を過ぎて「おはようございます」などと言うこともあり、人間味もある。
調べてみると最近の家電は少しお高いものなら大抵はしゃべるらしい。
「運転を、停止しました」
「電池を交換してください」
「蓋を閉めてください」
「おやすみモードに入ります」
そんなふうに色々な家電がしゃべるこの世界。
なるほど、悪くない。
悪くないが、私は思う。
家電よ、しゃべれるのなら、何か言う前にまず名を名乗ってくれ。
未来を想像してみる。
例えば電気ポットの取扱説明書、通知音声のページには、こう書いてある。
「電気ポットです。蓋を閉めてください」
「電気ポットです。再沸騰を始めます」
「電気ポットです。間も無く電源を切ります」
「電気ポットです…」
そこだけ読んでもどうして毎回わざわざ電気ポットが名を名乗るのかわからないかもしれない。
電気ポットなのはわかっているよ…そう思うかもしれない。
しかし実際に家の中で使ってみれば、その大切さがわかるのだ。
「冷蔵庫です。扉が閉まっていません」
「加湿器です。お水がなくなりそうです」
「エアコンです。フィルターを掃除してください」
「電動歯ブラシです。充電してください」
うんうん、これなら誰に呼ばれたか迷わずに済むし、何が必要かすぐにわかる。
私の不出来をフォローしてくれる未来の電化製品たち。
「電気ストーブです。コンセントが抜けそうです」
「こたつです。掛け布団に隙間が空いています」
「洗濯機です。干し忘れてます」
「換気扇です。昨日からつけっぱなしです」
「電子レンジです。牛乳温めてそのまま忘れています」
「掃除機です。中のゴミがいっぱいです」
ああ…うるさいな。今やるところだよ!
そう返したら換気扇あたりは
「換気扇です。すみません、出過ぎたことを申しました」
とか言ってくれるかもしれないが、
洗濯機あたりは
「洗濯機です。あなたこれ今月もう3回目ですよ」
とか返してきそうだな。
どうしよう。ケンカになってしまう。
特に冷蔵庫、洗濯機、掃除機、エアコンあたりは自分たちを「一軍家電」と思っていそうだし、気位が高くて扱いにくそうだな。(※個人の感想です)
「冷蔵庫です」と言われた瞬間になんだかもうそれだけでカチーンと来てしまいそうだな。
…なるほど、ズボラで気が短い人間には、警告は「ピー、ピー、ピー」くらいがちょうどいいのかもしれない。
「ピー、ピー、ピー」
今日もまた何かが私を呼んでいる…。今度はきっと、炊飯器、かな。
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