
春のはじまり、「ホーッ…キョ」と鳴く声が聞こえてきた。練習中なのか、まだ喉が開いていないのか、何度鳴いても「ホーッ…キョ」。それでも、声の響きは透明で美しい。頑張れ、と思いながらしばらく聞き入っていた。
半袖を着る日が増えてきた夏のはじまり、久々に聞こえてきた「ホーホケキョ」。随分と上達したのだなという嬉しさと(同じ鳥かどうかは分からないけれど…)、春でもないのに思いがけず美しい響きを耳にした驚きで、思わずスマホを木立ちへ向けてかざした。
それにしても夏に鳴くとは、なんと季節外れなうぐいす。
気になって調べてみると、うぐいすの「ホーホケキョ」は3月頃から7月頃まで聞くことができるらしい。予想より長期間に渡っている。「春告鳥」の呼び名を持つうぐいすを、すっかり春の鳥だと私は思い込んでいた。
しかも「ホーホケキョ」を響かせるのは、その時季のオスのみ。「ホーホケキョ」が聞こえなくなった後は、山から暖かい低地へ飛んでいくものもいれば、地域によっては季節の移動を伴わず居続けるものもいる。ここは平地なので、私が毎年耳にする「ホーホケキョ」の声の主は、きっとそう遠くはない場所で日々を生きていたのだろう。
メスと、それ以外の時季のオスは「チャッ、チャッ」と鳴くらしい。「チャッ、チャッ」?文字にしても、あぁ、あの声か、と思い当たるものが浮かんでこない。きっと耳にしたことはあるのだろうけれど。
春になると和菓子屋さんに並ぶ「うぐいす餅」。同じく春の象徴である「さくら餅」や「道明寺」ほど、春を想わせる特徴的な香りはないが、鮮やかな黄緑色を目にすると心が華やぐ。
ふと、美しいさえずりを聞くだけでなく、あの和菓子のように色鮮やかなうぐいすの姿を一目見てみたいと思った。だが、あのさえずりは思っている以上に遠くまで響くらしいので、目の前の木から聞こえてきたように感じても、きっと実際はもっと遠くから声を届けているのだろう。野生の警戒心もあるだろうから、なかなかその姿を目にするのは難しいだろう。
せめて写真だけでも見ようと調べてみると………ずっと思い描いてきた色と違う。その姿は木と同化しそうな、秋の終わりのようなぼんやりとした茶色…。声と同じく、時季によって羽の色が変わるとか?いや、換羽で緑への変色はないらしい。では、うぐいす餅のあの色はどこから…?
どうやら、遠い昔にめじろとうぐいすは混同され、めじろの羽の色から「うぐいす色」は生まれたらしい。今まで毎年食べてきたのはめじろ餅だったのか…
歌う時季も羽の色も、何も知らなかったうぐいす。今年はいつ頃その声を響かせるのだろう。
黄緑色のお餅を食べながら、「ホーッ…キョ」の春を待とう。
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