先日、世界文化社より『ディズニー 名作ストーリーブック・アドベント&イベントカレンダー』という子供向け絵本が出版されましたが、幸運にもその英文和訳を担当する機会に恵まれました。と言っても私自身が翻訳をするわけではなく、翻訳自体はイデア・インスティテュートの登録翻訳者が行います。それでも校正に携わっていくなかで、絵本翻訳特有の難しさというものを改めて感じましたので、このブログでは、そのとき普段の翻訳と違って特に気を付けたことについてご紹介しようと思います。
・難しい言葉遣いは避ける
子供向けの絵本なので当然と言えば当然ですが、小学生が普段使わないような語彙や、難しい言葉遣いは避けなければなりません。また、馴染みの薄い固有名詞も分かりやすいものに変えたりする必要もあります。例えば、「どんぐりのスフレ」は「どんぐりのパンケーキ」などにした方が分かりやすくなります。
・前もって漢字の使い方を決めておく
対象年齢がいくつかにもよりますが、例えば未就学児が主な対象になる場合には漢字は一切使わないとか、対象年齢が10才からとなっている場合には小学4年生までに習う漢字のみを使うなど、漢字の使い方について事前に方針を決めておく必要があります。実際に翻訳を進める際には、その漢字が小学何年生で習うものなのか調べることができるサイトなどがありますので、そういったものも活用します。
・人称代名詞は使わない
「あなた」「彼」「彼女」などの人称代名詞は、小学生の会話ではまず使われません。ですから、人称代名詞を省ける場合には極力省くようにしたり、「あなた」の代わりに相手の名前そのものを使ったりして、なるべく人称代名詞を使わなくてすむように文章を工夫します。
・人物にふさわしい口調を考える
登場人物それぞれの人物像を想像しやすくするため、一人称代名詞をどうするか(「私」「僕」「俺」「ワシ」のうちどれか、はたまたそれ以外を使うのか)や、その人物はどういった口調で話すのかといったことを事前に決めておく必要があります。参考になる既存の資料などがあればそれを参照しながら訳します。参考にできるものがなければ、自分でその人物像を思い浮かべて、どんな口調で話すのか想像しながら訳さなければいけません。作品の世界観に合わせることも重要です。
・読んでみたときのリズムを工夫する
翻訳時にはなるべく原文を尊重しますが、特に時制などをそのまま訳出すると、読み聞かせなどで音読したときのリズムが悪くなることがあります。例えば過去形の短い文章がいくつも続く場合、「~しました。~しました。~しました。」と訳すとリズムが悪くなってしまいます。そういったときは、間に現在形の時制をはさんだり、あえて動詞を省いたりすると、リズムがよくなったり、臨場感が出たりする気がします。
といった具合に、普段携わっている翻訳に比べると工夫しなければならないことが多く、実際に校正にも時間がかかります。やはり子供向けの絵本の翻訳には特有の難しさがあるなと改めて感じる機会になりました。
以下の文章は、生成AIに作ってもらった英語のお話を、実際に上述の点を意識しながら和訳してみたものです。皆さんならどう訳すでしょうか。ぜひ一緒に考えながら読んでみてください。
The Magical Umbrella
One rainy afternoon, a curious little girl named Lily found an old umbrella in her grandmother’s attic. It was colorful, with patterns of stars, moons, and clouds. As soon as she opened it, a strong gust of wind lifted her off the ground!
“Whoa!” Lily shouted, holding on tightly.
The umbrella carried her high above the rooftops, through the clouds, and into a land made entirely of candy. The trees were made of cotton candy, the rivers flowed with chocolate milk, and jellybean birds flew through the sky.
Lily met a talking marshmallow named Mello who wore a tiny top hat. “Welcome to Sweetland!” he said. “You’re just in time for the Great Gummy Bear Parade!”
Lily joined the parade, dancing with gummy bears, sliding down licorice hills, and eating rainbow lollipops. But soon, the clouds turned dark.
“Oh no,” Mello said. “The Sour Storm is coming!”
Lily quickly opened her magical umbrella. With a swirl of sparkles, it lifted her back into the sky and gently landed her in her grandmother’s attic.
She smiled. “What an adventure!”
From that day on, Lily always kept the umbrella nearby—just in case another magical journey was waiting.
まほうのかさ
ある雨のふる午後、めずらしいものが大好きな女の子リリーは、おばあちゃんの屋根うら部屋で古いかさを見つけました。星や月、雲のもようのカラフルなかさです。ところがリリーがそのかさを開いたとたん、強い風がふいてきて、リリーはちゅうにまい上がってしまいました。
「わあっ!」リリーはさけびながら、しっかりとかさをにぎりしめました。
リリーは空高く飛ばされていきます。屋根の上をこえ、雲の中をぬけ、やがてすべてがおかしでできた不思議な国にたどりつきました。そこでは、木はわたあめでできていて、川にはチョコレートが流れ、空にはゼリービーンズの鳥が飛んでいます。
リリーは、シルクハットをかぶったマシュマロ「メロ」に出会いました。「スイートランドへようこそ! ちょうどグミのクマたちのパレードが始まるところだよ!」メロは言いました。
リリーはパレードに参加し、グミのクマたちとおどり、アメのおかをすべりおり、にじ色のペロペロキャンディーをなめました。ところが、やがて空が暗くなってきました。
メロが言いました。「まずい! クリームのあらしが来るぞ!」
リリーは急いでまほうのかさを開きました。するとキラキラと光る風がふいてきて、リリーを空へと持ち上げました。そしてやさしくおばあちゃんの屋根うら部屋までもどしてくれたのです。
リリーはにっこり笑って言いました。「なんてすてきなぼうけんだったのかしら!」
その日から、リリーはいつもそのかさをそばに置いています。次のまほうの旅がいつ待ち受けているかもしれませんから。
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