発音が似ているアラビア語の単語
外国語の学習を始めてしばらく経つと、語彙が増えていきます。それに伴ってよく起こるのが、話したり書いたりしている時に、ある単語を別の単語と取り違えてしまう、という間違いです。とりわけ、単語どうしの発音が似ているときはよく混同が生じます。たとえば英語を勉強されている方は、carve「彫る」とcurve「カーブ、曲線」を取り違えたことのある方もいらっしゃるかもしれません。clash「衝突する」とcrash「衝突する、墜落する」とcrush「押しつぶす」ともなると、カタカナ音写すればいずれも「クラッシュ」になるうえに、意味も相重なるところがあるので、なおさら紛らわしいですよね。筆者もどれがどれなのかよく迷います。
今回は英語ではなく、筆者が大学時代に専攻していたアラビア語について、発音が似ていて紛らわしいと思っている単語を紹介したいと思います。
ケースその1:子音の順番が異なる
母音の並びは全く同じで、子音の順番だけが異なるペアは、発音も字面もよく似ていて紛らわしいものです。例えば以下のようなペアです。
母音の順番はどちらも、u-a-a-iです。子音のwとṭとrの順番だけが互い違いになっています。日本語でいえば、「刀」(かたな katana)と「彼方」(かなた kanata)、「だから」(dakara)と「体」(からだ karada)の違い、といったところでしょうか。各子音の発音について述べると、子音のwは、日本語のワ行の子音とほぼ同じ音。ṭは、舌を口の中で平らにして、かつ舌の後ろの方を喉の奥に引っ込めながら出した時のタ行の子音。アラビア語独特の子音で、国際音声記号 (IPA) では [tˤ] という記号で表記されます。rは、舌先を振るわせて出す、いわゆる巻き舌のラ行の子音です。日本語なら漢字で書けば明確に区別できるけれど、アラビア語は表音文字であるアラビア文字で綴るので、文字を知らないと一見して違いが分かりません。
ケースその2:似た子音が使われている

1 語頭に付いているシングルクオーテーション ʻ は、子音の記号です。舌の奥(舌根 ぜっこん)を喉の壁(咽頭壁 いんとうへき)のほうへ引っ込めて「゛ぉあ~」といった感じの声を出してみた時の、まさにその出し始めの「゛ぉ」の部分の子音です。音声学的には有声咽頭摩擦音(ゆうせいいんとうまさつおん)といい、IPAでは [ʕ] という記号で表します。アラビア語のラテン文字音写の方法は様々ありますが、この子音をシングルクオーテーションマークで表すことが慣習的によく行われています。
これは実際に筆者も間違えたことがあるペアです。zのほうは日本語のザ行の子音と同じ音です。一方ẓのほうは、英語のthisやbatheのth [ð]、つまり舌先を上下の前歯で挟み、同時に舌の後ろの方を、上述のṭと同じ要領で、喉の奥に引っ込めて出した時に得られる音です。IPAでは [ðˤ] という記号で表記されますが、あえてカタカナで音写すればザ行の音です。日本語母語話者の耳にはzとよく似たような音に聞こえます。zとẓで子音自体も似ている上に、a-īという母音の並びも同じで、かつ意味としても「指導者→エラい→偉大な」という連想が頭の中で働いてしまい、取り違えてしまいました。
似たような子音を持つ単語が、ふたつだけならまだよいのですが、時として、それが何個もあるような例もあります。以下の7つは、筆者が特に紛らわしいと思っている動詞の例です。
いかがでしょうか?なかには「いやどれも全然似てないでしょ」とお考えになる方もいらっしゃるかもしれません。が、どの動詞にもʻとdの子音が含まれているので、実際に使ってみるとなかなかどうして似ているように感じられるのです。このうち、iddaʻā イッダアー「主張する」とistadʻā イスタドアー「呼び出す」は、実際に取り違えてしまったことがあります。
今から9年前、大学3年に上がる直前の春に、ヨルダンのアンマンにひと月短期留学しました。現地の語学学校の授業で先生と会話している時に、どのような文脈だったかは忘れてしまったのですが、「主張する」と言いたくて、istadʻā 「呼び出す」を使ってしまいました。ふだん外国人にアラビア語を教授することに慣れている先生も、文脈を頼りに察することができるレベルを超えていたようです。けげんな顔で lā ʼafhamu ラー・アフハム「分かりません」とおっしゃる。あれ~おかしいな、なんで通じないんだろう、「主張する」ってistadʻāだよなあ(←違う!)と思い、焦りました。授業の後で辞書を引いて、「ア~、iddaʻāだったのか!」と気づき、悔しい思いをしました。それにしても、ほんのひと月だけの通学でしたが、覚えている限り、先生からは少なくとも5回は lā ʼafhamu と言われました。当時読み書きはある程度できましたが、会話は苦手でした。自分の語彙力不足と発音のまずさで、言いたいことが全然伝わらず、そのたびにもどかしく思いました。
iddaʻāとistadʻā 以外だとたとえば、帰国してから大学の講義内で、iʼtilāf イウティラーフ「調和」と言いたくてistiʼnāf イスティウナーフ「再開」と言ってしまい通じない、ということもありました。音が似ている単語を取り違えないようにするにはどうしたものか……。これはもうどんどん話してどんどん間違えて、ばつの悪い思いをして、母語話者に直してもらう、というのを繰り返すしかないのだと思います。いちど間違えて恥をかけば、それがエピソード記憶として脳に刻まれるので、次からは間違えなくなります。
アラビア語母語話者にとってよく似ている日本語の単語のペア
以上、いちアラビア語学習者である筆者が、個人的に似ていると思う単語を挙げてみました。これとは逆に、アラビア語母語話者にとっては、日本語のどの単語とどの単語が似た単語に聞こえるのでしょうか。およそ1年前の2025年4月に、語学交流アプリで、日本語を勉強しているアラビア語母語話者の皆さんに聞いてみたところ、実にさまざまな回答が寄せられました。発音の違いを視覚的に分かりやすくするため、カタカナ表記とヘボン式ローマ字表記も併記しています。
①「怖い」と「かわいい」(サウジアラビアの方より)
漢字・ひらがな・カタカナで綴ると別段似ているようにも思わないけれど、ローマ字にしてみると、子音のkとwが共通している上に、母音のaとoも共に広い母音なので、確かに結構似ていますね。「怖い」と「かわいい」では意味がまったく違ってくるので、取り違えるとそれこそ怖いことになりかねませんね(汗)。
別の方も、母音が異なる単語のペアを挙げてくださいました。
②「青」と「会う」(モロッコの方より)
こちらも、筆者自身はあまり似ていると思ったことがないのですが、ローマ字にしてみると母音ひとつだけの違いなので案外似ていることに気づかされます。日本語学習者の皆さんが紛らわしいと思うのも道理と思います。
③「作ります」と「使います」(モロッコの方より)
「作ります」と「使います」が似ている、というご意見は意外でした。でも確かに子音のtsuとkとmの順番が共通で、単語としてもやや長さがあるので、差は少しだけですね。思い返してみると筆者自身、慌てていたりすると、「作る」と書こうとして「使う」と書き間違えたことが何回かあります。
④「オーブン」と「オープン」(シリアの方より)
ブとプ、つまり子音のbとpだけが異なるペアです。実はアラビア語のシリア方言には、pの子音がありません。外来語のpの音はふつうbとして発音されます。そのためこの方も、「オーブン」と「オープン」を似ている単語と考えたのでしょう。もっとも、「オーブン」はいうまでもなく英語のovenの借用語ですが、そのovenは [ʌvən] アヴンと発音します。聴覚印象的に、日本語の「オーブン」とはかなり違いますよね。これを「オーブン」と音写した明治人の耳、だいぶ謎ですね。
このように、日本語を勉強しているアラビア語話者の皆さんも、アラビア語を勉強している筆者同様、発音が似ている単語に苦労していらっしゃるようです。それでも頑張って日本語学習を続けていらっしゃる皆さんに敬意を表します。
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