分かりみが深い、siempremente

言語学の一分野「形態論」に「生産性(productivity)」という用語があります。ある語形成のルールが、新しい語をどれくらい自由に生み出せるかを表す概念です。

例えば、形容詞を名詞化する「~さ」は、「長い→長さ」「まろやかな→まろやかさ」「フレッシュな→フレッシュさ」のように、様々な形容詞に適用することができます。このように自由に語形成しやすいことを、「生産性が高い」といいます。

同様に形容詞を名詞化するものに「~み」があります。例えば、「甘い→甘み」「暖かい→暖かみ」のように名詞化できますね。一方で、「広い→広み」「便利な→便利み」は正しくないと感じる人が多いはずです(「広さ」「便利さ」はOK)。つまり、「~さ」と比べて「~み」は生産性が低いといえます。

ここで「広み」や「便利み」を語形成がうまくいかなかったエラーの例として挙げましたが、このような表現が最近若い世代を中心に使われているのを見たことがありませんか。そう、「~み」には、10年ほど前から主にインターネットを中心にこんな用法が見られるようになりました。

  • 本来「~み」を付けにくい形容詞に付加した例…「やばみ」「尊み」など
  • 本来形容詞が入る「~み」の「~」の位置に動詞や名詞などほかの品詞が入る例…「分かりみが深い」「ギャルみがある」など

生産性が低いとされてきた「~み」が流行の中でたくさん言葉を生み出しています。

従来はなかった語形成のパターンがあるところで使われ始め、流行して広まった結果、新しい用法として定着するということはよくあります。「外来語+る」などがよい例でしょうか。「ググる」が広く使われ始めたころ私は小学生で、「今からローソンる?」のように少しおさまりが悪いものにもなんでも「~る」を付けて面白がっていたのを覚えています。

規範文法からは逸脱した表現を使用することで生まれる「ユニークさ」、友達と伝わりにくいあだ名で呼び合うのと似た「内輪感」「暗号っぽさ」が面白さにつながっていそうです。

また、先日スペイン語の曲を聴いていたときにも面白い表現に気が付きました。

(Jesse & Joy “Por siempremente”より)

この曲の歌詞では、形容詞に付いて副詞化する-mente(例:total「完全な」→totalmente「完全に」)が多用されていますが、本来-menteが適用できない副詞のsiempre「いつも」やcerca「近くに」などの語にも付加されているのが印象的です。-menteを繰り返すことで韻が生まれキャッチ―な響きになっているだけでなく、ルールからはみ出た造語をたくさん使用することで、普通の表現では伝えきれないほどあふれる感情が伝わるとても素敵な歌詞だと思いました。

いくつか見ましたが、言葉がルールをはみ出しながら変化していく様子を観察するのは興味深いものだなと思います。聞き慣れない言い回しに出会ったとき、「誤った言葉の使い方だ」と切り捨てる前に、その表現が生まれた背景や、伝えたいニュアンスをまずは想像してみると楽しめるかもしれません。

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